第5章 終局
「……っ!!」
耳を舐められ、ぞわっとした。
慌てて腹ばいになって逃げようとするが、体重を軽くかけられ、阻まれた。
同時にクラウスさんの手が、私の胸に軽く触れる。
「は・な・せっ!! この×××魔!!」
「落ち着いてくれたまえ、カイナ」
暴れる私を、子猫を扱うようになだめながら、
「その……記憶があいまいだったときの君は、私とのことを覚えているか分からなかったし、君の心の傷に触れることも心配だった。
だが、今はこうして記憶を取り戻してくれて、婚約も相成ったことだし……」
え。今まで病人だと思って我慢してくれてたの!?
相変わらず自制心があるんだか無いんだか謎な人だ!!
……そして、あの脅迫プロポーズを『相成った』と表現していいんだろうか。
マジで死の恐怖を感じましたよ、わたくし。
そして背中から手が回ってきた。服のボタンを外してデカい手が中に侵入しようとしてる。
クラウスさんの体温が高い。あとお尻にブツをこすりつけるの、止めて!
「クラウスさん! もういい加減に――んっ!」
手で口を塞がれた。クラウスさんは『しー』と、
「カイナ。ここは壁が薄い。あまり大声を出しては周辺住人に聞こえてしまう」
嘘つけ! 絶対、私の抵抗を封じるためだろう!!
口をふさがれたままでいると、ふわっと仰向きにひっくり返された。
やはり口を押さえられたまま、クラウスさんの舌が首筋を這い回るに任せる。
鋭い牙に甘噛みをされ、チクッと痛んだ。
昼間の薄暗い部屋で、安いベッドのきしむ音と、私の苦しげな息づかいが聞こえる。
すでに上着は前をはだけられ、クラウスさんは私の胸を愛撫するのに忙しい。
くすぐったい。恥ずかしい。背中がむずむずするから、止めてほしい。
あと噛むな!
「カイナ……息づかいが少し変わったようだが?」
やっと私の口から手を離し、クラウスさんが言う。
うるさい、うるさい、うるさい!
両手で胸をかばい、涙目で睨み上げるが、
「君を愛している。ずっと、共にありたい」
眼鏡を外し、キスをしてきた。
こちらは、これ以上にないほど顔が真っ赤である。
「いいだろうか?……カイナ」
キスが終わると、私は怒った顔をそむけたけど――コクンと、小さくうなずいた。