第5章 終局
もう完全に『推して参る!』な空気だった。
そうだ。クラウスさんってそういう人だー。
告白のときも、ほとんど脅されたみたいなもんだし。
……あ、あれ? 何で私、そんなこと……。
途端に私の中で火花が散るように、目まぐるしく色々な物が明滅した。
崩れた教会、巨大なイカ、テント、聖書を読むクラウスさん……。
第十三実験室、新しい家、コタツ事件、実況告白、二人の最初の――。
ドミノ倒しのごとく、一気に記憶が……戻った!
「カイナ?」
コホンと咳払い。
「クラウスさん、大変です!! ハオルシア・オブツーサが窓辺で変色しかかってます!!」
「何!? 雨ざらしなどとんでもない!! すぐ室内に保護しなくては!!」
私を抱いたまま、顔色を変えて立ち上がるクラウスさん。
だがしかし!!
「てい!!」
「何!?」
両手でクラウスさんをドンッと突き放し、私は自ら空中へ。
「カイナ!」
慌てて私を受け止めようとするクラウスさん。
だが私は身をひねり――ぼすっとベッドの上にバウンドする。
そしてあ然とするクラウスさんに指を突きつけ(失礼)、
「この一大事に、ンなことしてるヒマはないでしょう!?
スティーブンさんとかザップさんとかチェインさんは、あなた不在の穴を埋めるため、死に物狂いで世界を救ってる最中なんですよ!?」
「……っ!? 思い出したのかね!?」
うむ。記憶を取り戻すって、もっと感動的なイベントと一緒に行うもんだろうに。
まあ元々記憶が戻りかけてたから、あまり実感ないけど。
「そうか……」
「な、何ですか」
クラウスさんがじーっと私を見下ろしている。
「こういう大事なことは、大変なことが全部終わってからゆっくり話し合いましょうよ。勢いでだけ決めちゃって、あとでクラウスさんが後悔を――」
「後悔はしない。皆のことを案ずる気持ちに偽りはないが、それとこれとは話が別だ」
「!!」
クラウスさんが私に覆い被さった。
逃げようにも、今の私は足の筋力が弱りまくってて、上手く動けない。
「君の記憶が戻ったのなら、なおのこと今、答えが欲しい!
この件が終わっても、私と共にあることに異議は!?」
殺気。断れば殺される。私の直感は、そう叫んでいた。
「な、ないです!」
恭順してしまった……。