第5章 終局
抱きしめられてる、抱きしめられてる。
クラウスさんの腕を押して脱出を試みるが、丸太のごとくビクともしない。
「君は私との婚約を、前向きに考えてくれたのかね?」
「いや、その、ですね! 身分が違うでしょう! 私は一般市民で、クラウスさんは貴族で!!」
「? 私の国に貴族制度は存在しないが?」
きょとんとした顔で聞かれた。
「……っ!!」
「私の祖国は百年ほど前に、貴族制度及び、それに付随する特権を撤廃している。
称号が代々受け継がれているが、私も兄姉も一般市民だ」
執事を連れてる一般市民がいるかっ!!
「ち、ちなみに制度廃止前のラインヘルツ家のご階級は」
「公爵。今は関係のないことだ」
関係なくない!! 世が世ならクラウスさん、王位継承権持ちだろう!!
……つまり貴族制度自体は廃止になっても、影響力は維持してる系なんだろうな、クラウスさんのご実家。
だから最高レベルの執事たる、ギルベルトさんが仕えている。上流階級には変わりない。
「今の私は天涯孤独の身の上です。そんなのと貴方が一緒になっては、ご家族の方も快くは思われないのでは?」
「??? 結婚は当人同士の意思で決められるものだろう?
なぜ私の家族が出てくるのかね?」
『超理解不能』みたいな顔で聞かれたっ!!
クラウスさんは、私がそこまで嫌がってないと思ったのか、ちょっと雰囲気を和らげた。
私の髪に口づけ、頭を撫でる。
「私の家のことは気にしないでくれたまえ。私の家族だ。私の選んだ相手を疑うことはしない」
まあ、超絶にまっすぐお育ちになったクラウスさんを見てれば、どんなご家族なのかは多少分かるわな。
クラウスさんの大きな手が、私の手を包み込む。
耳元で声がした。
「カイナ。答えを聞かせてほしい」
うう。クラウスさんの心音がうるさすぎて、こっちまで集中出来ない。
「すみません、お気持ちは嬉しいのですが――」
「理由を聞かせてくれたまえ!」
即答だった。
「だって今はこんな状況ですし、先のことを考えてる余裕なんて――」
わ!! 脇を抱えられ、クルッとクラウスさんに向き合わされた。
「君自身の真摯な気持ちを聞きたい! 返答は!?」
そう言いつつ『答えはYesか”はい”か!?』という執念が目からにじみ出ていた。