第5章 終局
「不安もあるかもしれないが、君を狙う連中の最大の脅威は、君が『死亡回数を使い切る』ことだ。
必ずしも焦って契約式を解く必要はない。別に十年二十年かかっても構わないのだ」
「は、はい……」
「何よりも重要なのは、君の精神の安定と私は考える。
記憶があいまいな中、生活環境が激変する状況は君にとって好ましくないだろうが、私がそばにいて、出来る限り君を支えよう。
まずは心身の健康の回復、歩行機能改善、及び記憶の安定持続を目標に生活をしていこう」
「ありがとうございます」
……生活指導員さんと会話してる気分だった。
要約すると『術式解除とか難しいことは考えないで、今は普通に生活していこう』みたいなことらしいけど。
でも真っ正面から受け取っちゃいけない。
私のため、クラウスさんに何年もこんな生活させるワケにいかないのだし。
だがそれよりも。
『私と婚約してくれたまえ』
こ、この言葉が頭の中で反響しまくってるんですが……!
断ったら、あまりにもサラッと流されたので、詳しく聞くに聞けない状況だ。
まさかね。冗談ですよね!?
いやいやいや、私みたいな小娘がクラウスさんの相手としてふさわしくないコトは百も承知、二百も合点ですよ!?
もちろん己の分はわきまえておりますから!!
でもでも、いいいいい一応詳しく聞いてみたいかなあ、なーんて!
こんなにお世話になっているクラウスさんを困らせるなど愚の骨頂!
向こうが流して下さったんだ、流せ、私!!
「――私からの話は以上だが、何か質問は?」
「クラウスさんのスペックが知りたいです」
あああああっ!! く、口が勝手にっ!!
「クラウス・V・ラインヘルツ。26歳。世界の均衡を守る秘密結社ライブラの統括責任者。ラインヘルツ家の三男である。両親と兄二人、姉一人がいる」
どうしよう! うっかり口を滑らしただけなのに大真面目な返答が返ってきた!!
結構大家族っすな、ラインヘルツ家! 末っ子だったんか!!
でも時々見えるワガママな一面は、確かに末っ子っぽいし。
てか二十代だったのか、クラウスさん!?
それで今のこの人格って、いったいどんな人生送ってきたんだ。
「いや、そうじゃなくて!!」
実際それどころじゃなかった。
クラウスさんの目が……マジになってたのだ。