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【血界戦線】紳士と紅茶を

第5章 終局



 クラウスさんは嘘がつけない性格らしい。
 私が傷つくようなことはオブラートに上手くつつみ、分かりやすいよう、噛み砕いて説明してくれた。
 だがしかし。

「……それ、私を封印するのが一番手っ取り早くないっすか?」
「カイナ。そんなことを言わないでくれたまえ」
「いえ、でも……」
 両手を取られ哀しげに言われても、ついそう答えてしまう。

 私が死ねば、即、宇宙が終了。今死ななくても、事故死・病死でも終了。
 私を宇宙の外にほっぽり出す――のは個人的にやめてほしいので、封印すれば話が早くね?
 
 だがクラウスさんは超真剣だった。

「あきらめてはいけない。全てを捨てて安逸な結論に逃げるには早すぎる。
 決して――光に向かって進む君の歩みを、止めてはならない!」

 大真面目である。大真面目で、嘘偽りがない。

 ……茶化せないから反応に困る。

「そ、そんな世界の危機の割に、外は平和ですね」

 話をそらし、そっとクラウスさんの手を外して外を見た。
 窓からはむき出しのコンクリートしか見えないが、どこかしら、爆音だの銃声だのはするが。

「それは事が広範囲に露見していないからだ。君自身の危険度は相当に高い」

 本人に直接言うか、それ。

「けど神様のしかけた契約式をどうやって解くんです? 触れない、見えないのに。
 足し算もままならない幼児が量子力学の問題解くようなもんでしょ?」

 私の記憶は、浮かんだり消えたりする。
 知らないはずのことを知っていたり、覚えたはずのことを忘れたりする。
 あまりにも不安定。

 私は元々平凡だけど、今はさらにランクが下がってる。
 神様のパズルを解くなんて大仕事が出来る訳もない。

 するとクラウスさんは、
「カイナ。目を閉じたまえ」
 閉じた。

「深呼吸をして。暗闇の中、己の深層に集中を」
 催眠術みたいだなあ。でもとりあえず言われたとおりにした。

「感じられるだろうか。君という存在を取り巻き、がんじがらめに縛る物を」
 うーん。そう言われでも壁っぽい、真っ黒な何かがあるだけだ。

「だが恐れず近づいてみたまえ。何か分かるかね」
「ものっすごい大量の『式』ですね。あまりにも膨大だから壁に見えるくらいの」
 見たまんまを答えると、

「通常、そのレベルの知覚習得は平均十年を要する」

 ブッ!!

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