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【血界戦線】紳士と紅茶を

第5章 終局



「食事にしようか。待っていてくれたまえ」

 クラウスさんは、私の白い髪の寝癖をなでつけながら言う。

 当人は昨日と変わらず、シャツは清潔だし、ヒゲもきちんと剃っていた。
 そしてキッチンに歩いて湯を沸かし、手早く調理している。
 まあこの部屋はキッチンとベッドとリビングが全部一室にあるのだが。 
 私はクラウスさんが、軽快にサンドイッチを作る音を聞く。

「……余裕ですね」

 状況が未だ把握出来ないながら、そう言った。
 よく思い出せないが、今はのっぴきならぬ状況だった気がする。
 何が、というか――私自身が。

 するとクラウスさん、バツの悪そうな笑顔でこちらを振り向き、
「すまない。君に叱られてしまいそうだ。いや皆にも」

『皆』?

「だが、少し浮かれている自分自身も否定は出来ない。
 君がずっとそばにいてくれるのだから」
「?」
 よく分からないでいると、クラウスさんはトレイを持ってきて、額に軽くキスをしてくれた。

「二人で新しい生活を始めたような気になってしまう」

「???」

 新しい生活を始めたのでは? 頭の良い人の言うことはよく分からん。
「先に食べていたまえ。昨晩私が言ったことは覚えているかね」
「はい。小さく切ってよく噛んで、ゆっくり飲み込むこと」
「その通り!」
 クラウスさんは嬉しそうに言うと私に背を向けた。
 そして、やはり鼻歌を歌いながら、洗面所のコップに歯ブラシを二本指したのであった。

 …………

 …………

 食事が終わった後、私は『今後の話をする』と真面目な顔で言われた。
 なのでベッドから出て、きちんと椅子に座り向き合った。

「パズル、ですか?」
「そう。パズルだ。君は、その大いなるパズルを解かなくてはならない」

 何故に。とは思ったが『そうしないと大変なことになる』と、言外に言われている気がした。

「でも私、頭が悪いですよ。パズルとかそう言うのはちょっと……」
「そんなことは無い。君は頭の良い子だ。
 それに私が手伝う。専門ではないが、力になれるはずだ」
 クラウスさんは笑って、私の頭を撫でる。
 よく知らない人だけど、彼が頭が良い方なのは分かっている。
 じゃあ大丈夫かな。

「承知いたしました。して、そのパズルはどこに?」
「目に見えない。君自身が、身体の内に持っている」

 何だそれは。

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