第5章 終局
私はクラウスさんの肩にすがりながらウトウトした。
クラウスさん、世間知らずっぽいもんなー。
ぼろアパートに住むことになっても、貴族のクラウスさんが戸惑わないよう、私がしっかりして色々やってあげないと!
ん? 何で私、クラウスさんが貴族って知ってるんだろ?
疑問に思ったけど、私はそのまま目を閉じた。
…………
…………
クラウスさんがドアノブを開けるとかび臭い匂いがした。
「ふむ。そこまで悪くはないな」
そう言って、旅行カバンからご自分の服を取り出し、床に敷くと私をそこに座らせた。
ここは裏通りの集合住宅の一角だ。
「夜の間に良い場所が見つかって良かった。家具も一式そろっているし」
良い場所?
見たところ家具がある『だけ』。ハウスクリーニングすらされていない汚れたアパートの五階ですが。
「カイナ。レディの君に不便な思いをさせてしまったことを詫びさせてほしい」
クラウスさんは腕まくりし、張り切っている。
「窓にヒビ入っていません?」
「テープで目張りすれば使えるだろう」
「キッチンの水道、さっきからポタポタと水漏れしてません?」
「私が修繕するから待っていてくれたまえ」
「クラウスさん! ネズミっ!!」
「む。巣穴を見つけて速やかに塞がねばならないな」
スッとネズミを捕まえ流れるような動作で外に逃がし、きちんと手を消毒する。
『ギルベルトがいなくて良かった』となぜか笑いながら。
そして部屋を一通りチェックし、同室にあったベッドを点検。私をそっとその上に寝かせた。
クラウスさんは鼻歌を歌いつつ、もう少し室内を清掃されるらしい。
私は戦慄する。
……なぜだ。なぜこんなボロアパートで品位を保っていられる!
これこそが貴族だとでも言うのか!!
むしろ適応出来てないの、私の方じゃないか!
「あの、何かお手伝いすることは……」
大きな背中に恐る恐る声をかけるが、
「休みたまえ。君は君が思うより疲労している。休めるときには、しっかり休息を」
マジメな顔で言われ、布団をかけられた。
「おやすみ」
かがんでキスをされた。
「おやすみなさい」
そう行って目を閉じ、固いベッドで眠りについた。
こうして、クラウスさんと私のアパート住まいが始まったのだった。