第5章 終局
クラウスさんに慰められ、やっと肩の力を抜くことが出来た。
すごくホッとして――もう少しだけ頑張りたいと思った。
自分のためではなく、クラウスさんのために何かしたいと思った。
この人が好きだ。この人のためなら、何だってやりたい。
嘘偽りなく、そう思うことが出来た。
尊敬する人たちと肩を並べ、いつかクラウスさんの背中を追うことが出来たら……。
…………。
……あれ?
何か思い出しかけた気がする。
大切な人たち、大切な場所を。でも思い出しかけた途端、それらは霧のように消えてしまった。
「さて、そろそろ行こうか。カイナ」
クラウスさんが立ち上がり、私をヒョイッと抱き上げ歩き出した。
「うう……」
歩ける状態じゃないとはいえ、何か恥ずかしい。
ヘルサレムズ・ロットなので、大男が少女を抱き上げていようが、いちいち注目されたりはしないが。
でもさあ!
「私、またちゃんと歩けるように練習しますね」
「ああ。もちろん手伝わせていただこう」
碧の瞳が頼もしかった。
…………
私はクラウスさんに抱えられ、夜の街を行く。
「それで、これからどこに行くんですか?」
夜のヘルサレムズ・ロットは、ガラの悪そうな人たちが多かった。
でも彼らはこちらをジロリと見るだけで、絡んできたりはしない。
多分、クラウスさんが発する『尋常では無い何か』を感じ取っているのだろう。
それはいいけど、落ち着かないなあ。
するとクラウスさんは、
「カイナ。泊まる場所は私がどうにかするから、君は休んでいたまえ」
移動中に抱っこされながら寝るとか、ますます子供なんだけど。
「…………」
「心配かね? 君が見る悪夢は君には何も出来ない。
うなされるようであれば、私がすぐに起こそう」
「いや、それもありますが……」
大丈夫なのかなー。クラウスさんは良い人だって分かるけど、何か雰囲気がお坊ちゃんっぽいしー。
顔に出てしまったかもしれない。クラウスさんは苦笑し、
「心配しないでくれたまえ。ここに来る前は世界各地に出向いていたし、もちろん単独で作戦地帯を歩いたこともある」
「マジですか。ではちゃんと屋根のある場所に住みたいです」
「そうだな。それは一番重要だ」
クラウスさんはそう言って笑ったのだった(怖い)。