第5章 終局
あ然とする三人を背に、クラウスは一人歩き出し、彼女のいる部屋に入った。
そして戻ってきたとき、肩には――まだ歩けないのだろう――きょとんとした少女を抱えていた。
そして別の手に大きな旅行カバンを持っている。
その後をついて来た忠実な老執事は片手を震わせ、無念そうだった。
「私があと二十若ければ、決してお二人だけで行かせはいたしませんのに――」
別に二十歳若くなくとも、無理やりにでもついていきそうな雰囲気のギルベルトだった。
だが、クラウスは制する。
「ギルベルト。私たちは必ず帰ってくる。それに備えて待機していてくれたまえ――それとスティーブン」
血管が切れる寸前のこちらに、クラウスは静かに、
「世界の危機はカイナだけではない。だから私たちが戻るまで、ライブラを頼む」
本気で戻ってくる気だ。この大馬鹿は。
今ここで裏切って、三人がかりで少女を封印しようと動き出すことも出来るのに。
そんなことをしないと心の底から信じきっている。
「あーあ、見てらんねえな。どっぷり女にハマっちまってよお!」
嘆息したのはザップだ。
「なあ旦那。あんたのデカい図体じゃ、この街で隠れ住むのも一苦労だろ?
俺がついて行ってやってもいいぜ。もちろん護衛代はいただくけどな!」
チェインも慌てて身を乗り出す。
「ミスタークラウス。人狼局に保護を求めて下さい!
局長と次長なら、きっと味方をして匿ってくれます!!」
だがザップとチェインの提案に、クラウスは首を左右に振る。
危険の高さは言われるまでもなく自覚しているのだろう。
注目を浴び、落ち着かなく身じろぎする少女の背をポンポンと叩きながら、
「ありがとう。だが心配はいらない。彼女は必ず成し遂げる」
そして旅行カバンを抱え直しライブラ事務所の出口まで歩き、振り返る。
「それでは行ってくる」
まるでちょっと食事に行くような顔で言い――扉の向こうに消えた。
その日から、クラウス・V・ラインヘルツとカイナ・シノミヤは、ライブラから姿を消した。