第5章 終局
クラウスは咳払いし、
「コケ類や雑草からの栄養摂取すら困難になったカイナは、飢餓に苛まれ、また己の身体を作り替えたのだろう。
空気中の水分の摂取を可能とし。そして――」
「……光合成」
スティーブンは呟く。さすがに驚嘆せざるを得ない。
消化能力を変化させセルロースを分解するのとでは、全く話が違う。
いくら必要に迫られたからといって、極限状態にある少女が身体の構成を変える術式を編み出したのだ。
それも無意識に。脳波データまで偽造し、計器をだますオマケまで添えて。
(ただし寝たきりで動けなくなる『文字通りの植物状態になる』欠点もあるらしいが)
末恐ろしい少女だ。いや『末』があったらの話だが。
「サボテンか、あいつはっ!!」
ツッコミを入れてるザップはさておき(というか半分同感だった)。
とはいえ『植物状態』となった彼女を人界に呼び戻すのも簡単ではない。
クラウスが『コタツ』を持ち出したのは根拠がない話では無かった。
”ここが間違いなく安全な場所である”と彼女に教えるための選択だったらしい。
だが問題はここからだ。
「それで? これからどうするつもりなんだ、クラウス」
彼女を封印しないとなれば、ライブラのリーダーにどんな策があるというのか。
「彼女自身が『召還門』の術式を解除すればいい」
クラウスは事も無げに言った。
「不可能だ」
「無理だぜ、旦那」
「ミスタークラウス。それはさすがに」
スティーブン、ザップ、チェインの即答が重なる。
「クラウス。カイナには確かに潜在能力があるが、それと神性存在の付与した術式の解除は、全く次元が異なる」
今のカイナは自分の名前すら覚えていない。長期間の監禁で、歩くのも精一杯な状態だ。
「俺は難しいこたぁ分かんねえけどよ。今日明日で終わる話じゃねえんだろ?
その間、どうやってチビを隠すんだ?」
「すでに事態は露見しています。
牙狩り本部や国家権力含めた、有名無名、無数の組織が、カイナの獲得、もしくは完全封印を目的として動き出しているかと。
ライブラ本部での籠城は、多数の構成員の犠牲を伴うものと予測されます」
三人の冷静な返答に対し、クラウスは重々しくうなずく。
「全て承知している。だから――ここから先は、私たちだけで行く」