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【血界戦線】紳士と紅茶を

第5章 終局



 そもそも、少女がこの世界に肩入れする理由がない。
 この世界に来て壮絶な迫害を受け続けた彼女は、この世界と人類に憎悪を抱く、相応の理由がある。
 少なくとも『牙狩り』本部はそう見ているようだ。

 そうでなくとも『生きた召還門』は核以上にもろく、核よりも強力な抑止力だ。
 小国が彼女を『保有』しようものなら、合衆国はそれだけで跪(ひざまず)かざるをえない。

 事態は焦眉の急を告げている。

 本部はもはやクラウスに期待していないだろう。
 クラウスの更迭、最悪『処分』まで検討し出しているかもしれない。
 なのにクラウスは非情になりきれない。この男は決して、己の強拳を味方に向けることはない。

 彼個人がいかに強い人間であっても孤立無援ならば、いつかは限界が訪れる。

 ならば少女はいつかは連れて行かれ、この世の終わりまで封印されるだろう。
 

 ……だが光明が何一つ見えないかというと、そうでもない。


 少女の魔導的潜在能力が、覚醒しつつあるのだ。


 …………

 …………

 点滴を受ける少女をギルベルトに任せ、ライブラ精鋭メンバーは執務室に移動した。

 外はすでに宵の刻であった。

「で、何でカイナに意識が戻っていると気づいたんだい?」

 スティーブンは珈琲を飲みながらクラウスに聞く。
 本当は酒でも食らいたいところだが、仕方が無い。
 
「湿度だ」
 クラウスはきっぱり言った。

「部屋の湿度が、季節的な事情を考慮しても低すぎた。
 水やりをしたはずの植物の葉も乾いていた。
 何より脱水状態にあるはずのカイナが脱水症状を呈しておらず、水分量を調節している痕跡すらあったのだ。
 だから――」

「あのよぉ。旦那ぁ」
 冷たい声で遮ったのはザップである。

「正直に言ってくれていいんだぜ? キスしたときの感じが違ったから気づいたって」

「…………」

 沈黙。かなり冷たい沈黙。
 クラウスは大量の冷や汗をかき、ぼそりと、

「……うむ」

 いや『うむ』、じゃねえよ。冷たくスティーブンは考える。
 非常時に呑気にディープキスなんかしてるから、恥をかくんだろうが。

 ……まあそのおかげで、口内の唾液量の変化に気づけたのだろうが。

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