第5章 終局
ちなみにこの宇宙が滅んだあと、少女は解放されるのか?
否。
神を降臨させこの宇宙を滅ぼした後は、少女は次元のはざまを永遠にさ迷うことになるらしい。
絶望と憎悪の記憶に発狂と死と蘇生を永劫繰り返しながら、あらゆる時空に出現し続け、並行宇宙を滅ぼし続ける存在となるようだ。
契約を押しつけた神性存在も、笑っていることだろう。
彼らにとって数年など一瞬。その間に召還門が完成しかかっているのだから。
『牙狩り』本部が算出した『鍵』の予測初期個数は、相当に多い値だった。
少女の『召還門化』は何も無ければ数千年かかっていたとの予測だった。
神性存在は少女に人界をさ迷わせ、荒廃していく世界と人間の醜さを存分に楽しむつもりであったのだろう。
……それが何年も保たず、『鍵』が全て取っ払われようとしているのだ。
まず三流魔導組織の行った残虐非道な実験の数々。
加えて『堕落王フェムト』の所業が大きい。
かつて彼女は、千年の魔導を極めた怪人『堕落王フェムト』に一度、拉致されている。
そりゃ堕落王も興味を引かれただろう。
『世界崩壊幇助器具』が意思を持ち、道を普通に歩いていたのだから。
その堕落王フェムトは悪ふざけで、彼女にかけられた『鍵』をごっそり外して、しかも定期的に死ぬようにしてしまったのだ。
……まあ堕落王のかけた『定期的な死』に関する術式だけは、少女が寝ている間、ライブラが死ぬ気で解除したが。
…………
ともかく。
もはや猶予はない。恐らく残り数回以下の死で、少女はこの世界に上級神性存在を顕現させ、宇宙を滅ぼす『召還門』となる。
彼女は現時点、この世界の内で最も発動可能性の高い『世界崩壊幇助器具』――世界を終わらせるアイテムなのだ。
ならば割れる寸前の水風船を前に、人類はどうすればいいのか。
最も即効性があるのは、彼女の時を凍結させ完全密封し、この世の終わりまで『厳重保管』することだ。
だがこれは、数少ない実行可能者たるクラウス・V・ラインヘルツが私情に流され失敗した。
彼は他の解決手段を探すと言い放ったのだ。
『彼女がこれ以上死ななければ良いだけの話』とは、クラウス・V・ラインヘルツの弁だ。
だがそれこそ噴飯物だ。
小娘一人に宇宙の命運を握られる事態など、誰が歓迎するだろう。