第1章 出逢い
夕暮れである。
崩れかけた聖堂は静かだ。
祭壇の下の空間で横になり、明かりを頼りに、私は聖書のページをめくる。
うーん……。
”Ask, and it shall be given you;
seek, and you shall find;
knock, and it shall be opened to you:
(求めよ、さらば与えられん。尋ねよ、さらば見出さん。叩け、さらば開かれん。
――マタイ福音書7:7)
えーと……聞けばもらえる、探せば見つかる、叩けば開く、くらいの意味かなあ。
”There is surely a future hope for you,
and your hope will not be cut off.
(必ず良いことがある、あなたの希望が消えることはない。
――箴言23章18節)
hopeは『希望』。それくらいは知ってる。
希望は消えないって意味だろうか? 聖書って案外簡単な文章が多いんだ。
「はあ……」
ため息。暗くなってきたこともあり、聖書を閉じ、汚れないよう胸に抱えた。
あかん。どうしても落ち込んでしまう。
クラウスさんは、今日はとうとう来なかった。
当たり前だ。あれだけ親切にしてもらったのに、あんな態度を取って『二度と来るな』と言われれば、普通は来ない。
でもこれでいい。
負担になりたくない。迷惑をかけたくない。相手の好意につけこんで『守って~』なんて馬鹿女、ごめんだ。
私は私の足で歩いて行く。
「そろそろ動かないと」
ガレキを片付け、可能なら『組織』と連絡を取る。
大半はガレキにつぶされたが、まだ無事な機材が残っている可能性もある。
「……面倒くさい」
床にごろんと横になり、目を閉じた。
『いやおまえ、つい数秒前にカッコ良さげな独白しなかったか?』という自分からのツッコミが入るけど、もう知らん。寝る。
おかしいな。少し前はもうちょっと前向きになれたのに。
理由は分かりきってる。
目を閉じる。
多分、今日も眠れない。睡眠は必要ではないけど。
クラウスさんと会った日は、昨日以外、よく眠れたっけ。
もう。二度と眠れないかもしれない。
そのとき、ヘルサレムズ・ロット全体を揺るがすような凄まじい地響きと轟音がした。