第1章 出逢い
夜のオフィスに、静かなキーボード音が響く。
傷心のクラウスがギルベルトを伴って帰り、夜も更けたオフィスにはスティーブンだけが仕事で残っていた。
「これで終わりになるなら良かったと思うべきか?」
ノートパソコンを操作しながら、一人ごちる。
念には念を入れ、その少女について詳しく調べたかったのだが。
しかし未だ、くだんの教会がどこにあるかすら分からない体たらくだ。
ギルベルトは主人のプライベートについては頑として口を割らないし、クラウスを尾行しようにも、ライブラのリーダーに気づかれず尾行が出来るメンツなど限られている。
いたとして、より重要な別の任務に振り分けている。
なぜ誰も居ない教会に留まっているのか。なぜこのヘルサレムズ・ロットで生存出来ているのか。
疑問点を挙げればキリがないが、さしのべた手を拒んだのは本人だ。
クラウスはまだショックを受けているようだが、未練がましくつきまとう醜態を晒す男ではない。
これでようやく、彼女に会いに行くことを止めてくれるだろう。
妙な一件だったが何ごともなく終わり、幸いだった。
スティーブンはそう結論づけ、息を吐く。
ただライブラの中枢としての冷静な判断を、全て放棄するのなら――。
本当は友人の恋を応援してやりたかった。