第5章 終局
■Sideライブラ
あらゆるデータ、そして拷問にかけた組織残党の証言。
そこから判明した真の全体像はこうだ。
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かつて、野望だけは一流、腕は三流以下の弱小魔導組織があった。
彼らがもくろんだのは神性存在との取引。
無数にある並行世界一つを犠牲に、神性存在級の力を手に入れようという壮大なものだった。
彼らはそのための媒介として、並行世界から一人の少女をさらってきた。
なぜ彼女かと言えば、どうもその世界随一の魔導的潜在能力の持ち主だったかららしい。
しかし、その並行世界では異界と現世がほぼ完全に分断されていたようだ。
神性存在もさして人界に関与せず、ほぼ物理法則の天下。
もちろんヘルサレムズ・ロットは無く、『血界の眷属』は未確認。
魔術、PSIの類いに至っては死滅状態であったらしい。
いかに潜在能力があろうと、使う状況に無ければ無用の長物だ。
少女もその世界にいたままであったなら、己の力に気づくことなく、平凡ではあるが幸せな一生を送っていただろう。
それを、全てを奪い、無理やりに呼び寄せた。
当時、英語も何も分からなかった少女を襲った苦難は、あらゆるデータが記す通りだ。
そして壮大すぎる野望に対し、頭脳も腕もお粗末な組織連中には、当然、山ほどの誤算が生じた。
その最たる物が接触した神性存在に玩具とされたことだ。
神に存在を認識されたこと自体が、数兆分の一の僥倖(ぎょうこう)であるが、最悪の僥倖だった。神の退屈しのぎの遊び道具にされたのだから。
そして少女は、神性存在が顕現する『召還門(ゲート)』に変換された。
だがそのまま『召還門』にされたわけではない。
少女には、その身体を『召還門』にゆっくり変換する術式が組み込まれた。その生命を『術式の鍵』と紐付けられたのだ。
どういうことかと言うと、彼女が一度死ぬごとに『召還門』を構成する術式が一つ編み上げられる――死ぬたびに『召還門として完成していく』わけなのだ。
そして彼女が無数の『死』という『鍵』を使い切れば術式はめでたく完成。
彼女は『召還門』として完全に起動するわけだ。
そして彼女を通して出現した超上位神性存在は、その存在の強大さ故、召還された瞬間にこの宇宙を消滅させるだろう。