第5章 終局
誰かの声がした。
「おい。チビ! 起きろ!! 準備が出来たぞ!!」
頬をピタピタ叩く感覚。あれ。暖かい。この暖かい熱、かすかな暖色の光は……。
「カイナさん、果物をいただきませんか?」
あ。さっきのおじいさんの声がする。この匂いは……。
意識がだんだんとハッキリしてくる。
ここはどこ? 安全な場所なのかな。うん、きっと安全な場所だ。
だってここには優しい人しかいない。
「! ミスタークラウス……カイナの手が、動いてます!!」
重い。身体が無茶苦茶重い。筋肉がギシギシする。
まぶたを開けるのにも膨大な力がいる。
でもゆっくりと手を動かし、目を開けた。
そして周囲を視認し、思ったよりはしっかりした声で言った。
「あれ……コタツは?」
ミカンはあったがコタツはない。コタツだと思った熱は、褐色の肌の男が持ってる遠赤外線ライトだった。そいつはくしゃっと顔を歪め、
「ねーよ。バぁぁーカ!!」
「マジか。この外道」
殴りたいけど殴れない。震える手でへろへろなパンチが精一杯。
その男は私の手をパシッとつかむと、
「このクソチビ!! ×ヶ月ぶりにしゃべる言葉がそれかよ!!」
軽い、ものすごく軽い頭突き。
でも笑ってる。
ライトを放り投げ(ガシャーンと割れる音がしたが)、褐色肌の男が私の髪をくしゃっと撫でる。いだだだだだ!!
「他に言うこと山ほどあんだろう!! 助けて下さってありがとうございました、ザップ様とか!! おめおめと生きながらえましたーとか!!」
何度も私をこづく。誰が言うか、そんなこと。
だがその人は、なぜか半分くらい泣きそうな顔だった。
「ちょっとクソ猿!! 病人だよ、彼女は!!」
褐色肌を蹴飛ばしながら、胸の大きなお姉様が言った。
私の背を支えながら、やはり泣きそうな顔で、
「良かった。本当に良かったよ……戻ってきてくれて」
「しかし。まだ何一つ解決していないんだがな」
腕組みをし、白い息を吐きながら青シャツの男の人が言う。
あ。こいつ敵だわ。後で始末する算段をつけねば。
私を取り巻く人たちをキョロキョロと眺めながら、私は戸惑っていたのだった。