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【血界戦線】紳士と紅茶を

第5章 終局


 …………

 声がする。私は『消耗』したので周囲を『確認』せず、横になっている。
 声だけが聞こえた。

「カイナを起こすって、どうやってだよ旦那! 脳波は散々見たんだろ!?
 こいつは一切の反応をしてねえんだ。
 俺らの話も聞こえてない、理解も出来てねえ!!
 それ以前に水も食事も摂ってねえんだぞ!?」

「ミスタークラウス。正直、信じがたい思いです。
 確かに彼女に魔術の潜在能力はありますが、何の訓練も受けていませんし……」

「だからこそだ。カイナが発していたサインに気づいてあげられなかったことを、後で彼女に深く謝罪せねば。だが今は――ギルベルト!」
「用意してございます、坊ちゃま」
 この×ヶ月、朝に夕にと私の面倒を見てくれた、優しいご老人の声がする。

 そしてかすかに香る――あ……こ、この匂いは!!
 よく吸いたくて視界を遮断した。

 室内が騒がしい。不安と、期待に満ちた空気が交錯している。

「旦那。こっちも準備出来たぜ。
 ……なあ旦那。本当にこれで、チビが起きるのか?
 てか、今さら起こしてどうするんだ? もう状況は――」
「その件は私に任せてほしい。今は、彼女を『こちら』に呼び戻すことが重要だ。
 カイナの意識は、こちらを把握しながらも夢とうつつの間をさ迷っているはずだ。
 ――スティーブン。頼めるか」

「ああ。負けた。もう腹をくくったよ。転職先を探す覚悟でつきあおう!」
 やれやれ、と言わんばかりの声。

「すまない。君には汚れ役ばかりを押しつけた」
「…………。いいさ。クラウス。君は彼女が起きた後のことだけを考えていればいい。さあ、始めるぞ!」
 
 室内に緊張が走る。怖くなる。
 ここは安全な場所だと思い始めていたけれど、違うのだろうか。
 もう少し深く――永久に、潜っていた方が……。
 けど遅かったんだろうか。
 水をまく音がした。

「エスメラルダ式血凍道――アヴィオンデルセロアブソルート!!」

 寒い!! 冷たいっ!! なぜか知らんが室内気温が一気に氷点下になった!!
 だが私は動かない。てか動けない。周囲を確認も出来ない。

 寒いー! 死ぬ!! 誰か!
 さっきの大きな人、助けてっ!!

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