第5章 終局
音がした。私は目を開けず、周囲の状況を探る。
大きな人が、左手に金属製のナックルを装備していた。
怖い。
今日は霧が薄いのだろうか。夕日がまっすぐに突き刺さる。
どこまでも強い。光を背にしたその人が見えない。少し怖くなる。
重い靴音。その人が私に一歩近づく。
「今、君を終わりのない煉獄の渦から解き放つ――」
その威圧。
一歩踏み込んだだけで、ベッドの周りに無数に置かれた植物たちが震えた。
私は一切反応しない。
押し殺したような声がする。
「憎み給え、赦し給え、諦め給え――」
あなたは諦めたのだろうか。もしそうなら、私はそれに従うだけ。
「人界を護るために行う、我が蛮行を――!!」
紅き光が見え――でもすぐに収束した。
金属製の重そうなものが床に落ちる音がする。
ナックルが床に落ち、跳ね返ったのだ。
「――――!!」
慟哭。血の叫び。誰かが床を蹴る音。
「カイナっ!! 私は! 君は!……君、だけは……」
痛ぇ!! 超痛ぇ!! 駆け寄ってきたその人に、私は容赦のない剛力で抱きしめられた。痛い痛い痛いって!!
そして、またキス。今度は深い。
私は決して反応しない。
「…………?」
その人が不思議そうに顔を離した。
あ。ヤバい。もしかして『バレた』かな。
デカい人は私から身体を離し立ち上がる。
「まさか……!」
彼は周囲を確認する。そして震える手で観葉植物の葉っぱを触り――。
「――っ!!」
絶叫。今度はさっきと逆。歓喜の声だった。
「どうした、クラウス、何があった!!」
ドアがバタンと開き、大勢がドッと入ってくる。
「旦那。もう決めちまえよ。こいつだって、もう――」
「銀猿、あんたは黙ってなさい!! ミスタークラウス!」
しかし室内の空気は緊迫している。
「クラウス。迷ったのか? なら僕がやる。『血界の眷属』ではないのだから、その子を封印する方法は一つではない。人道的でも何でも無くなるが……」
冷たい声がする。
「いや違う。道はある!! 彼女はまだ、諦めていない!!」
近くで怒鳴らんで下さい。うるさいっす。
それと私は『諦めていない』わけではない。
あなたが諦めていないみたいだから、それについていきたい。
ただ、それだけ。