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【血界戦線】紳士と紅茶を

第5章 終局



 懇願するような声が続く。

「今や、上位の『血界の眷属(ブラッドブリード)』、別の神性存在の介入さえ想定の範囲内だ。
 それほどに事態は逼迫(ひっぱく)している。
 例え最終的にお嬢さんを封印したとして、君の首が無事だとは限らない」

「私はあきらめない。彼女を封印もしない!!」

 怒鳴りはするが苦しんでいる。誰かが哀しそうにしている。

「いい加減にしろ、クラウス!!『それ』はもう! おまえの恋人だった子じゃない!!
 おまえのことも生きることも何もかも忘れた――現時点、この世界で最も発動可能性が高い『世界崩壊幇助器具』だ!!」

 そして別の声がする。

「ミスタークラウス。彼女はもう水も食事も摂取しません。
 経管含めたあらゆる栄養補助の類いを一切拒絶しています。恐らく彼女の魔力も限界近いでしょう」
 女性の声がする。いつか、聞いたような優しい声。

「旦那。次にチビが衰弱死するか、この瞬間にも魔力が尽きて『記憶希釈』が続行不可能になり発狂に至れば――それでも、こいつにかけられた呪式が完成するぜ。
 神性存在が顕現し、この世界は終わる」
 ちょっとやさぐれたような声。煙草の煙の匂い。どこか懐かしい。

「改めて言う。決断してくれ、クラウス。あらゆるデータを精査しての結論。人界、異界、牙狩り本部、ライブラ、君の味方含めて、全人類、全存在からの依頼だ。

『それ』を永遠に封印しろ――もう、楽にしてやれ」

「……しばらく、二人きりにしてほしい」

 しぼり出すような声が聞こえた。

 …………

 …………


 窓から夕日が差している。

 誰かが私の手を取っている。手をさすり、呼びかける。話しかける。口に何か触れさせ、水か食べ物を摂取させようとする。歌も聞こえる。

 でも私は反応しない。天井を見ている。

「……カイナ」
 泣いているみたいだった。泣かないで、ほしかった。

「なぜ君が、こんな目に遭わねばならないというのだ……」

 唇に唇が重ねられる。
 抱きしめられる。強く、強く。

「一瞬で終わる。決して君に苦痛は与えない。約束しよう」

 哀惜の声が聞こえた。

 だから私はちょっとだけ、ホッとした。



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