第5章 終局
大きな部屋だった。
私のベッドの周囲には、きれいな色の植物がたくさんあった。
……何でだか、一番近い場所にドンッとドデカい松の盆栽があったが。
「何でも食べていいんだってさ」
と黒髪の人が私の髪をとかしてるとき、笑いながら言ってた。
でも私は何も食べない。何も飲まない。答えない。話さない。動かない。眠らない。
私は何でこの場所にいるんだろう。分からない。よく覚えていない。
ここに来る前に色々とあった気もするんだけど、忘れてしまった。
…………
…………
声が聞こえる。私のすぐそばだ。
皆がいる。
そう認識はしていたけど、私は表面上は一切の反応をしなかった。
「クラウス。決断してくれ。もう君自身の手で密封する以外に道はないんだ!」
目元に傷のある男性が険しい声で言った。
「断る!!」
怒鳴ったのは大きな男の人だ。
「情をどうこう言っている場合か! もう彼女は、開放寸前の『神性存在』召還門だ!!」
よく分からない。彼女とは私のことだろうか。
「連中は契約に失敗したと思っていたが成功した……と思わせておいて、やはり失敗していた!
神性存在に遊ばれていたんだ!
ひとたび顕現すれば、その瞬間にヘルサレムズ・ロットどころか、この宇宙が崩壊する超上級神性存在にな!!」
呼吸を整える音。
「クラウス……君の気持ちは分かるが、詭弁で自分をごまかすことはよせ。
君が彼女の『時』を止めれば、世界崩壊の危機だけは回避される。
彼女ももう死なず、過去の記憶や痛みに苛まれることなく、安らかな眠りにつける」
珍しくもない、そこらに転がっている、ありふれた世界の危機。
私はそんな存在らしい。動くことも、話すこともしたくないけど。
「それこそ詭弁だ、スティーブン。現にカイナは、一度は開きかけた門を己の意思で閉じた」
「偶発的なことだ。奇跡中の奇跡の確率でのことだし、彼女がそれを為した原因は本人にしか分からない。
それにもう忘れているだろう。次に成功する確率はほとんどゼロだ」
まあ実際に忘れてますが。
もう一度、呼吸を整える音。
「本部からは秒単位で催促が来ている。
このまま現状を放置していれば、ザップの師匠や、それレベルの怪人が動き出すぞ」
傷のある人も、どこか苦しそうだった。