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【血界戦線】紳士と紅茶を

第5章 終局




 私を抱き上げたのは、知らない、怖い顔の大きな人だった。
 その人は、私を見捨てなかった。

 コンマ数秒でもタイミングが遅かったら、自分がこの宇宙の外に放り出されていたのに。
 それでも発動しかけた呪式陣に飛び込み、私を救い出した。

 代わりに――運が良いのか悪いのか、あるいは狙って飛ばされたのか、別の男が呪式陣の上に転がった。
 私を外の世界に放り出せと、しつこく絶叫してた人だ。
 確か、私を捕らえていた組織のボスだっけ……? よく分からない。

 彼も慌てて陣から出ようと思ったが、彼は間に合わなかった。
 発動した呪式陣は、固定されてしまった。
 彼はこの世界から消えるその瞬間まで、恐怖の表情のまま、助けてくれと泣き叫んでいた。
 そして、消えた。

 あとには沈黙だけが残った。

 天井まで染まる大量の血と死体。
 凍るような寒さと熱と硝煙。

 割れた壁の間から、朝日が入ってきた。

 私がいた場所は、ずいぶんと狭くて汚いちっぽけな場所だった。

 私は服をかけられ、さっきの大きな人に抱き上げられた。
 キスをされたけど無反応だった。
 いや、聞こえてはいたけど、もう私はどういう刺激にも一切反応しないようになっていた。

 次はどこの実験場に連れて行かれるんだろう。
 コケか雑草が生えてる場所がいいなあ、とボンヤリ思っていた。

 …………

 …………

 そして私はどこかに連れて行かれた。
 全身を慎重に洗われ、傷の手当てをされ、きれいな服を着せられた。

 鏡をチラッと見たとき全身が包帯だらけだった。

 かろうじて見える髪が真っ白になっていた。

 色々な人が来て、私に色々なことを言ってきた。
 けど、私は反応しない。

 ベッドの上で、ただ宙を見ていた。


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