第5章 終局
…………。
アンティークの時計の振り子が、時を刻む音が聞こえる。
本を読む大きな人の背中が見える。
振り向き、私に気づくと、笑顔で手招きする。
私を膝に乗せ、本を読んでくれる。
うとうとしたら、毛布をかけてくれる。
起きたら目の前に暖かい紅茶とドーナツが並んでいる。
大きい人が『あーん』と、ドーナツを食べさせてくれる。
美味しい。幸せ。
彼の眼鏡を外して、私にかけてみる。
全然サイズが合わない。よく見えない。
笑って眼鏡を取り返される。それを取り返そうとしてじゃれ合って、二人で笑う。
夕日がきれいだ。
消えていく。その人の思い出が。顔が。名前が。
でも仕方が無い。
――私は、あなたを守る。
…………
…………
「……光が収束した?」
「馬鹿な!! こいつ、今、自力で門を閉じたのか!?」
よく分からない。神性存在の降臨寸前に、それが止まったのだろうか。
誰が止めた?……私が?
「いや一時的にだ。だが一体なぜ……」
「こいつは魔術のまの字も知らん、ど素人だぞ?」
「とにかく、とんでもない僥倖(ぎょうこう)だ! 術式を再開させろ! こいつをこの宇宙の外に放り出すんだ!!」
「お、おう!」
呪式陣が不気味な青い光で包まれる。
私は痛みで動くことも出来ず、ただ、術式が発動するのをぼんやりと――。
ぼんやりと、その後の光景を眺めていた。
「――!?」
「何だ、おまえら――ぐあああっ!!」
見た。
私にひどいことをした奴らが、拳の一撃で上半身『全て』を砕かれるのを。
別の誰かが生きたまま氷の柱になり、粉々に砕かれるのを。
別の誰かが血のように赤い刃で、全身を滅多斬りにされるのを。
銃弾で全身をバラバラにされ、体内を貫通した手に心臓を抜き取られ、とにかく皆死んだ。
「クラウス!! 離れろ! 呪式が発動しかけている!! 近づくな! まきこまれるぞ!!」
私が乗った呪式陣はほぼ発動していた。
私は青白い光に包まれ、この宇宙の外に転送――。
誰かが寸前で私を外に抱え上げ、陣の外に脱出した。
一瞬のことだった。