第5章 終局
「ダメだ。術式がどうして変更出来ない!!
これじゃあ俺たち”メビウスの輪”が世界を握るどころじゃない!」
「おい!! 鍵の個数を四桁も減らされてるぞ!!
誰がここまでの術式圧縮を可能にしたんだ!! そんな超天才が……まさか、堕落王フェムト……!?」
「待て。ここに来てから、どれだけこいつを殺した?」
「もしかして……もう鍵を使い切ったんじゃ」
一瞬の沈黙の後。
「今すぐに! このゾンビ女を他の外の世界に転送しろ!!」
悲鳴のような叫び声。大慌てといった感じで、私のいる呪式陣が書き直されていく。
「だが座標はどうする。宇宙と宇宙の狭間にでも飛ばしたら、こいつは時間のない世界で、この世の終わりまで永遠に――」
「ゾンビ娘がどうなろうと知ったことか!
こいつは、今この瞬間にも門を開放しておかしくない!! 早くしろ!!」
「わ、分かった!」
ずいぶんと勝手なことを言ってるなあ、とはどこかで思った。
それにしても門を開放って……?
ああ、そうか。夢の中で見たあの光の渦。あれらは『私』を『こじ開けよう』としていたのか。
私は『不死』なんかじゃなかった。
私の『死』は言わば、無数に取り付けられた因果のパーツ。
それを己の死を持って一つ一つ解き、門を開放するパズルを組み立てる役割をさせられ……て、自分で考えていてもよく分からん。
私は誰だっけ。私の名前、何だっけ……。
そうだ。もう私の中はギチギチに何かであふれ、今や解放を待つばかり。
痛い。苦しい。楽になりたい。解放されたい。
……開放したい!!
「おい!! 動き出したぞ!! 止めろ!!」
攻撃される。血が飛ぶ。でも生き返る。
痛い。苦しい。もう開けてしまおうか。
開けて、楽になろうか――。
「!! 門が開放されるぞ、逃げろ!!」
「……畜生!! やっぱり契約に失敗してたんだ!
俺たちは、神性存在に完全に遊ばれたんだ……!!」
絶望の怨嗟が聞こえた。 誰かが私を力任せに殴る。痛い。
痛い。嫌。もう開けよう。門を開放して、楽になろう。
歓喜の声を上げ、破壊の瞬間を今か今かと待ち構える光の渦。
私はそれを受け入れるべく、門を――。
「門が開くぞ……! もう、全て、おしまいだ……!!」