第1章 出逢い
■Sideライブラ
休憩から帰ってきたクラウスの落ち込みようは、皆が見ていられないほどであった。
仕事には支障はないようだが、どよーんと背を丸めながらキーボードを打つ様は、そのまま床に沈むのではないかと思わせた。
「だーかーら、言っただろう、旦那。女には金か光物かスイーツ! 太古の昔からそう決まってんだよ!」
空気を読む気ゼロのザップだけが、ボスの失敗に大喜びだ。
「ドーナツは喜んでくれた。それに、あれだけの悲劇があってなお、教会に留まっている方だから、何よりも聖書を読みたいだろうと……」
クラウスはぼそぼそ言っている。
いや他にも山ほどあるだろう。テントとか、水とか食べ物とか。
スティーブンは心の中でツッコミを入れた。
信仰厚き貴族の友人は、こういうところで浮世離れした真似をして大失敗する。
まあ入れ知恵をして『お詫びを!』と仕事中にリベンジに行かれても困るので、放置したが。
クラウスをまとうオーラは、かつてないほどよどんでいる。
「二度と来ないで欲しいと怒られてしまった。もう行かない方がいいのだろうか……」
『うん』と、ギルベルト以外の全員が無言でうなずいた。
(多分ギルベルトさんも心の中でうなずいてる、とスティーブンは見ていた)
クラウスが一回り以上年下の少女に恋をしたらしい。
(本人はきっぱりと否定したが、態度が完全に裏切っている)
発覚後、主にザップが中心となり、お相手について聞き出したのだが。
『明らかに迷惑がられている』というのが、すぐに全員の一致した見解になった。
つまり予想された結末であったのだ。
「ま、君がそこまで心配するのなら、ヘルサレムズ・ロットの教会ネットワークにも連絡をつけてやるよ」
実行する気のない慰めを口にした。
「だからもう彼女のことはキッパリ忘れろ。無理につきまとうとか、『どこかの誰か』みたいな見苦しいことをするなよ?」
冗談めかして言うと、ザップがムッとした顔で何か言いかけたが『ぐえっ!』とチェインに頭上から踏まれ、そちらとの小競り合いに突入する。
「そんなことはしない」
陰鬱な目でクラウスが呟いた。
そう願いたいもんだよ、とスティーブンは苦笑し、仕事に戻った。