第4章 異変
「でも皆さん、長い鍛錬をされてる上、才能があるからなあ」
ヤクに女にギャンブルと、人間のクズ要素が三つそろってるザップさんでさえ、あのスティーブンさんが『天才』と認める実力の持ち主らしい。
そんなザップさんでも、幼少の頃から厳しいお師匠の下でスパルタ修行をさせられていたらしい。
私の潜在能力など、平々凡々たるものだろう。
今から修行を始めて、一体どれだけ歳月があれば……。
「い、いやいや! 最初から諦めてどうする!!」
と自分を叱咤しページをめくり、ちょっと読み進めた。
おお。さすがは初心者向け。エレメンタリー・スクールの子供向けの平易な内容で――。
ノックの音がした。
「…………」
私はホテルの部屋の扉を見た。
もう一度、ノックの音。
ギルベルトさんが来たんだろうか。
私はホッとして、ドアを開けに行った。
『お嬢さん。僕から防犯の心得を教えてあげよう。
一つ。無防備に扉を開ける奴は長生き出来ない。外に何が待っているか分からないからね』
いつか、スティーブンさんが私に言った言葉がふと、脳裏に再生された。
またノックの音。
……違う。外にいるのはギルベルトさんじゃない!
有能執事さんなら、必ずスマホで私に一報を入れる。
ホテルのフロントの人も同様。部屋を訪問するなら、室内の専用電話からまず連絡を入れる。
またノックの音。さっきより強い。