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【血界戦線】紳士と紅茶を

第4章 異変



「…………」

 窓の下を何度となく確認する。
 でもギルベルトさんの車は見えない。

「いやいや落ち着け。まだ三十分も経ってないじゃないですか」

 ギルベルトさんは、クラウスさんを拾って現場に届け、それからこちらに向かうという。
 けど『血界の眷属(ブラッドブリード)』の出現位置は、ここからどれだけ離れているのだろう。
 霧に包まれたこの街はそう遠くまで見渡せるわけではない。
 少なくとも、この高層ホテルから見渡した範囲では、大規模な爆音などは聞こえなかった。

 でもさすがにギルベルトさんとは、合流した頃だろうか。

「スマホ……」

 自分の荷物の中からスマホを取りだしかけ――止める。
 クラウスさんが車に乗ってるとして、今頃、状況説明を受けている頃だ。
 声が聞きたい。でも今でなくていいはずだ。
 クラウスさんの邪魔をしてはいけない。
「もっとわきまえないと……」
 取り出しかけたスマホをしまい、不安な心を抑える。

「不安?」

 そんなものがあるワケない。
 あのクラウス・V・ラインヘルツが全面的に私に味方をしてくれるのだ。
 それに私だって、末席とはいえライブラのメンバー。なんと言っても『不死』!
 死んだって生き返る。
 
 ……不安になることなんて何もない。そのはずだ。

 最近は昼となく夜となくクラウスさんと一緒だったから、その反動だ。
 それ以外に不安になる理由なんてあるわけがない。

「とにかく、ここから動いちゃダメなんだから」

 私は荷物を探り、クラウスさんにいただいた聖書を出そうとした。
 未だ信仰心を持つに至らないが、あちこちに書き込まれているクラウスさんの注釈を読むだけで心が安まる。
 文言を暗唱すれば、クラウスさんが喜んでくれる。褒めてくれる。
 それが何より嬉しい。

「?」
 聖書を出そうとした手が、別の本に触れる。
「何だこれ?」
 
『初心者のための魔術教本』

「えーと……あ、思い出した」
 確か、たまたまライブラの書庫だか資料室だかに迷い込んだとき、うっかり手に取った本だ。

「そういえば、私、魔術の素養があるんだっけか」

 うーむ。

『血界の眷属(ブラッドブリード)』相手の激戦の中、格好良く魔術を使い、クラウスさんと並んで強敵に立ち向かう私。

 い、いかん。顔がにたぁっとなってしまう。

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