第4章 異変
「…………」
クラウスさんは私の肩を抱きながら沈黙していた。
明晰な頭脳で、私の言葉の意味を吟味するように。
そして突然。
「――!!……まさか……っ!!」
目を見開いた。私を凝視し、それからスマホを取り出す。
だが取り出すと同時に、ちょうどスマホの着信音が鳴った。
クラウスさんはすぐ電話に出た。
「スティーブンか! ちょうど良かった! 至急君に――……何!?」
クラウスさんの声に戸惑いが走る。
会話が進むにつれ、ギリッと歯を食いしばる。怖い顔がさらに獣じみてきた。
「……分かった。すぐに向かおう」
スマホを切り、立ち上がった。そして右手にグローブをつける。
「すまない。『血界の眷属(ブラッドブリード)』の出現を確認した」
「…………!」
『血界の眷属(ブラッドブリード)』。人類にとって最凶最悪の敵だ。
化け物じみた力を誇るクラウスさんたちでさえ、押さえ込むのが精一杯だと聞く。
「下級存在とのことだが、油断は出来ない」
懊悩(おうのう)を顔ににじませ言う。
「私はここを出、ギルベルトと合流する。
車で私を現場に送らせた後、そのままUターンさせ君の迎えに寄こそう」
当然の判断だ。私が一緒に現場に行く方が危険すぎる。
とはいえ、私を守りたいと言った直後だ。
クラウスさんの苦悩は想像に難くない。
クラウスさんは私の前に立ち、両肩に手をかけ、かがんでキスをした。
「カイナ。何かあれば連絡を。その際、私の事情を考慮してはならない」
「はい」
「ホテルを出る事態が発生、あるいはスマートフォンを紛失した場合は、人に紛れ大通りのみを歩き警察へ。
ダニエル・ロウという警部補の男に面会を求め、私の名を出せば、保護措置を取ってくれるだろう」
「はい」
クラウスさんは、もう一度私を抱きしめキスをした。
「すぐに……ギルベルトが来る」
「大丈夫です」
死んでも生き返ります、という言葉はもう使えない。
「またすぐに会えますよ」
「……そうだな。今夜は何が食べたいかね」
「ピザが良いです! ピザとコーラとポテトと山盛りフライドチキン!!」
「それはギルベルトに叱られそうだ」
クラウスさんはフッと笑い、身を翻した。
そして部屋の扉が閉まり、ロックがかかるのを、私は見送った。