第4章 異変
クラウスさんは怒りに震えていた。
「君の『死』を目の当たりにしては、もはや事態を静観することは出来ない。
堕落王の所業にも憤りを覚えるが、状況は恐らく動いている。奴の目的を読み解く方が先だ」
クラウスさんは私の顔を見て少しだけ表情を和らげ、
「カイナ。君自身が分かる異常を話してはもらえないだろうか。
どんな些細なことでも構わない。我々には重大なヒントになる」
クラウスさんの焦りも分かる。
表面にはあまり出さないが、私が死ぬことにとても過敏になっている人なのだ。
そんな人が、私自身が一切記憶していないとはいえ、私の『死』を再び見てしまった。
「でも……」
「我々は世界の均衡を揺るがす、いかなる事態にも対処することが出来る。
私はそのための鍛錬を積んでいる!」
「いえ、ですが……」
ライブラを動かすような重大事態なのだろうか。
私は『不死』なんだし、定期的に死んだところで日常生活に支障はないのだし。
「私は君を守ると言った! いやそれ以前も君を守ると、守れるものと自惚れていた!
なのに私は……君を守れていない!!」
クラウスさんの目には、どこにもぶつけようのない、どうしようもない苛立ちがあった。
そしてガバッと私を抱きしめる。
「君はいつでも私の与り知らぬところで一人戦い、傷つき、孤独に亡くなっている。
そんな哀しい真似は、もうやめてくれたまえ。
どうか私に君を守らせてほしい。私を……信じてほしい!」
…………。
頼っていいのだろうか。迷惑にならないのだろうか。
そうだ。迷惑ではないと何度となく言われたじゃないか。
私は一人だけで、自分の不安を抱えていた。
それこそがクラウスさんに負担をかけないことだと。
でも……それは、間違っていたんだろうか。
私が秘密を打ち明けてくれないと、もしかしてクラウスさんを傷つけてたんだろうか。
私はそっとクラウスさんの膝から下り、隣に座ってもたれた。
そしてか細い声で、
「……あれからずっと、同じ夢を見るんです。
光の渦が私に襲いかかってきて、あと少しとか、通れる、とか不気味なことを繰り返して……」
バカバカしいと思われないだろうか。単なる悪夢だと、諭されないだろうか。
ちょっと心配でクラウスさんを見上げた。