第4章 異変
「…………」
一瞬だけ、してほしいことが頭に浮かぶ。
だけどすぐ、その願望を消した。
「特に何も。ありがとうございます」
ベッドの上で、微笑んで首を振った。
「そうか。では私は水を取ってこよう」
クラウスさんはそう言って立ち上がり、背を向けた。
あ……。
すぐ戻ってくるのに、一瞬だけ不安になってしまった。
ガキか!!
しっかり休んでとっとと回復するのが仕事だろう、と自分を叱りつけた。
「?」
あれ。どうしたんだろう。クラウスさんが止まってる。
そして私を見下ろし……え。怖っ!! にやけかけてる!! 怖っ!!
いきなり何なの。どうしたの。
と、クラウスさんの視線の先を追い――。
「……っ!!」
私の片手が!! クラウスさんのズボンの端をつかんでたっ!!
「すすすすみません!! これは無意識にっ!!」
慌てて手を離すが、
「そうか。私にそばにいてほしいのだな」
クラウスさんはすっかり笑顔(怖い)で、かがんで私の頬や髪に口づける。
ち、違う!! そういう意味じゃ!!
「カイナ」
でも唇に唇を重ねられ……ぷしゅっと力が抜けた。
「……あ、あの、して、ほしいことが……」
小さな声でぼそっと言ったが、
「もちろんだとも! 何でも言ってくれたまえ!」
……貴族がキラキラしていた。
…………
窓の外から、午後のやわらかな光が差し込んでいる。
「横になった方がいいのではないかね?」
「これがいいです。もう、大分調子が良くなってきたし」
「君が気丈なだけだ。まだ顔色も悪いし体温も平熱より低い」
私の平熱を把握してるとか、どんなだ。
「いいんです。クラウスさんが暖かいから」
そう言って背中に体重を預けた。
どんな状況になっているかと言うと、私はクラウスさんのお膝の上に抱っこされてる。
腕を身体の前に回し、背中から抱きしめられている格好だ。
これは私が『避難所のポーズ』と勝手に名付けているものだ。
私の小っこい身体が、クラウスさんの中にすっぽり包まれる。
「この体勢だと、前後左右、どこから襲われても安全なのです」
「…………。安心したまえ。君を守り切ると約束しよう」
クラウスさんも合わせてくれた。
そして目を閉じ、私をギュッと、強く強く抱きしめた。