第1章 出逢い
これまた面倒くさいので、後々まとめて説明の機会を設けるが、とりあえず私は英語圏の人間ではない。
『組織』の連中曰く、私の出身は恐らく日本とのこと。
サムライ! サムライの子孫ですよ、私!!
……英語はからきしである。
おかげで『こっち』に来た当初はエラい苦労した。
『組織』は拷問や解剖の脅しと引き換えに、私に無理やり英会話を学ばせた。
おかげで日常生活で話す方は苦労しなくなったが、読み書きはサッパリだ。
連中は私のことを使い捨ての実験道具としか見てなかったので、最低限の意思疎通さえ出来れば良かったのだ。
エレメンタリースクール(小学校)レベルのごくごく簡単な文章なら理解出来るし、間違いだらけで良いなら書くことも出来る。
ただ字が下手で筆記体すら危ういため、あまり書きたくないけど。
そのあたりは話さず、クラウスさんにはこう説明した。
「えーと、その、うちはアジア移民の家系で、アメリカに渡ってからはスラムに住んでたんです。
でも家にお金がなくて小学校は途中で行けなくなっちゃって。
教会が半分慈善で雇ってくれて掃除や雑用をしてて、んでヘルサレムズ・ロットでの布教活動についてきたんですが……」
『組織』に用意されたカバーストーリーを、たどたどしく話す。
でも誰かに話すのは初めてだなあ。
「……申し訳ない。私は、本当に……」
クラウスさんが顔に手を当ててる。『何でこの世にはこんな悲劇が』と言葉もないお顔である。
いや、私の下なんて腐るほどいますって。
とはいえ、今のでクラウスさんをホントのホントに追い返す方法が浮かんでしまった。
私が最低女になるけど、仕方が無い。
もうこんな良い人に、私みたいなクズに時間を使ってほしくない。
「ミス・シノミヤ。私に何か出来ることがあれば……」
息を吸い込み、心にもないことを言う。
「ならもう、二度とここに来ないで下さい。ミスタ・ラインヘルツ。
あなたの無神経さにつきあうのはウンザリです」
それを聞いたときのクラウスさんの顔は、どうしても見れなかった。