第4章 異変
…………
「クラウスさん、クラウスさん、すごい! すごいですよ! あの松!! ものすごい良い匂いがします!!」
半時間後。会場で大はしゃぎするガキが一人いた……。
いやあ。展示会というだけあって、壮観だ。
ありとあらゆるボンサイが一堂に会し、高価な物は千万ゼーロ超価格。超本気防御術式が施され、警備員までついている。
人も多く、人間の老若男女他、異界人の好事家も珍しくない。
私はその中で、一際テンションが高かった。
「カイナ。少し落ち着きたまえ。あまり急いでは人にぶつかるし、転んでしまう」
クラウスさんは落ち着いて鑑賞するどころでなく、私をなだめるのに忙しい。
「すごいですよ、クラウスさん、ギルベルトさん! あっちはもみじ、あっちは楓……すごい……匂いでむせそう……」
ちょっとよろめき、クラウスさんに支えられる。
しかし彼は不思議そうに、
「むせるほどに匂うかね? 確かに清涼な自然の芳香はあるが……」
あれ? おかしいな。人より五感が優れているクラウスさんなら、分かってくれると思ったのに。
しかしさっきから足下がふらつくような……。
いや違う。マジでふらついている。
「……カイナ!? しっかりしたまえ!」
ぶっ倒れかけたところを、慌てたクラウスさんに支えられた。
「また不調か。ギルベルト、車を――」
だが私はクラウスさんの手をしっかりと握り、
「クラウスさん……一個、買ってきましょう……食後に二人で……食べ……」
するとクラウスさんは顔を青くし、
「そ、それはいけないカイナ! あれは神工品とも言うべき、職人の技術の極みを尽くした芸術。食するなど冒涜(ぼうとく)行為ですらある」
私を抱き上げながら慌ててる。
「いじわるいわないで~くらうすさん~。いっこかってくらさいー」
あ。もう呂律(ろれつ)が回らない。顔が真っ赤でぐでんぐでん。盆栽の匂いが、もう全身に……。
「……いつもとは症状を異にするようだ」
会場の出口に向け歩くクラウスさん。陽気に笑う私を見ながら眉根を寄せる。
「ただちに重大事には至らぬようだが、しかしこれでは……」
「ええ。酩酊されているように思われます。坊ちゃま。
もしや年代物の盆栽の匂いに酔われたのでは?」
ギルベルトさんの声がする。
え。あるのか、そんなこと。