第4章 異変
深夜も人通りが切れないヘルサレムズ・ロット。そこを、クラウスさんに手を引かれながら歩く。
「あ。でもギルベルトさんあたりは、もしかしたら気づいて来ちゃうんじゃないですか?」
私の記憶する限り、ギルベルトさんは誰よりも早く来て事務所を清掃。皆が来る頃には珈琲や紅茶、軽い朝食まで用意してるような人だ。
ご老体を深夜に叩き起こすのは、申し訳なさすぎる。
「心配はない。休息出来るときにはしっかりと休息するように頼んでいるし、『こういったとき』は気を遣ってくれる」
「? そうですか、それなら」
クラウスさんの言葉に違和感を抱いたが、とりあえず納得しうなずいてしまう。
…………
…………
半時間後。ついてきたことを死ぬほど後悔した。
「このセクハラ上司! 女を膝に乗っけて仕事をする人がどこにいるんです!!
あと機密文書が私から見えちゃうからっ!!」
「うむ。ならば私にしがみついていてくれたまえ」
「そう思うなら膝から下ろせっ!! 腕で逃亡阻止するなっ!!」
「クラウスさん、仕事中にプロスフェアーは禁止!」
「しかし、ヤマカワさんが久しぶりにログインしていたから……。
ああ、ちょうどいい。君もやってみるかね?」
「出来るか! いいから仕事して下さい!」
「少し休もうか。君も疲れただろう。ソファで休むといい」
「いや、私は眠くは――!? え!? 何やってんですか、クラウスさん!!
ここ、事務所! オフィス! 皆の仕事場だからっ!!
やめ……ちょっと……!! 何、服を勝手に……ぁ……やあ……!……」
忘れてた。この人、意外とワガママな一面があるんだった……。
…………
…………
翌朝。
「坊ちゃま。車の準備が出来ました」
「ありがとう」
クラウスさんは上機嫌なお顔で、
「それでは私たちは出かけてくる。スティーブン。何かあれば連絡を」
「……了解」
完璧に無表情のスティーブンさん。
そ、ソファはしっかりと清掃消毒しましたからね!?
『…………』
他のライブラ精鋭の皆さんは無言。
私はクラウスさんに支えられている。
というか小脇に抱えられている。
立ってられねえ……。
そして運ばれてゆく。
「ちょっと可哀想になってきたかも……」
後ろでチェインさんがボソッと呟いたのが、大変に痛かった。