第4章 異変
素人知識をまくし立てる私を、クラウスさんはバカにしたりせず、
「ファーストフラッシュ(春摘み)も同様に繊細なグリニッシュの芳香が特徴的でね。
今は夜だが昼の日の下で見ると美しい、淡いオレンジ色だからすぐに分かる」
いや分からん。生まれたときから紅茶すすってるような、純粋培養の貴族の紅茶知識に私が勝てるわけがない!!
……まあ、そんだけ違うんですよね。生まれも育ちも、社会的地位も。
いかん。気を遣っていただいてるのに、また沈んでしまう。
もうマフィンも食べ終わってしまった。
話をそらすため、何を言ったものかと悶々としていると、
「カイナ。今日はボンサイ展に行かないかね? その帰りに、園芸用品を買いに行こう」
「へ?」
突然に話が飛んだので、呆けた声を出す。
「でもクラウスさん、お仕事でしょう?」
「うむ。だから今から行って、今、片付けられる仕事を片付けてくる」
「……はああ!?」
ああだから、もうネクタイ姿だったのね……て、納得出来るか!!
私が流れについていけない間に、クラウスさんは立ち上がる。
「これからライブラに行く」
「ち、ちょっと待って下さい! そんな、いきなり……」
「君も来てくれるだろう? カイナ」
「…………」
「今は深夜だ。この時間に私のサポートをしてくれるのは君しかいない」
……ズルいなあ。
クラウスさんの方が、ずっと上を行ってる。
私が何を悩んでるか、何を必要としてるか、もしかして私より分かってるのかもしれない。
そこまでしてもらって、私に返せるものは身体くらいしかない。
釣り合いなんて、取れるわけがないのに。
「さあ、出発するから着替えを」
「は、はい!」
私が大慌てで部屋に戻り、着替えている間に、クラウスさんは汚れた衣類やリネン類をテキパキと交換する。
顔を洗い、寝癖をどうにか整え、出発準備が完了したところで、クラウスさんが私の手を取った。
「行こうか、カイナ」
「はい!」
ちょっと泣きそうだった。
ホントに、こんな日々がずっと続けばいいのに。