第4章 異変
ともかく好きな花を聞かれ、私の不用意な一言により、クラウスさんが大喜びでバラ作りに着手してしまったのだ。
「……寒っ」
うう。夜風が染みる。
私は家に戻らず、庭のガーデンテーブルに行き、腰かける。
そのまま、ボーッと風に揺れる花々を眺め――なんてポエマーなことが出来るか!!
とりあえず夜風で眠気を覚ましながら、色々考える。
……。
私、明日も死ぬのかな。
この場所が本当のバラ園になる頃まで、私は存在してられるんだろうか。
『組織』の人らはホントに私のことを諦めたんだろうか。
また拷問と実験の日々に戻ったりするんだろうか。
今日のセックスでクラウスさん、満足出来たのかな。
そろそろガキの恋人に飽きて、別れを考えてるのでは?
ギルベルトさんもライブラの皆も、無力なよそ者のガキがボスのそばにいるのを実は快く思ってないのでは?
ああああああ……。
夜の考え事は絶対にあかん。思考が悪い方へ悪い方へ行ってしまう。
でも暖かい家の中に戻ったら絶対に眠くなるしなあ。
あ、そうだ。クラウスさんのいない日は、外で寝るのもいいかも。
どうせ前は、地面の上で普通にゴロ寝してたんだし。
名案にうんうんとうなずいていると、扉が開く音がした。
「!!」
心臓が跳ね上がるかと思った。
振り向くと、テラスへの出入り口にクラウスさんが立っていた。
ネクタイとベストを着用し、今からでも出勤出来そうな姿。
対して、寝癖のついた私の頭とパジャマ姿。
それ以上は見ていられず、前を向き、膝の上でギュッと手を握った。
熱いひとときを過ごしたのに、勝手にベッドを抜け出してる恋人をどう思うだろう。
注意するだろうか、あるいは知らないフリをしてベッドに戻ろうと言われるだろうか。
どっちも嫌だ。
嫌われるのも、また眠るのも怖い。
クラウスさんの靴が石畳を踏む音。こちらに近づいてくる。
私は何も言わず、うつむき、身体をガタガタ震わせた。
靴音がもうすぐそこだ。不安と混乱で、今にも泣きそうだった。
コトッと、何かがテーブルに置かれる。
ビクッとしたけど、甘い匂いに鼻腔をくすぐられ目を開けた。
「夜食はギルベルトに叱られるのだが」
クラウスさんがイタズラっぽく笑っていた。
紅茶とチョコチップマフィンののったトレーがあった。