第4章 異変
「……あの、何か?」
パソコンから顔を上げ、クラウスさんに言う。
「いや。問題はない。君の様子を確認しただけだ」
という割に、執務デスクからじーっとこちらを見るクラウスさん。
慣れないコタツで寝たせいだろうか?
二日続けて安眠出来なかったらしい。お仕事ぶりはいつもと変わりないが、その人相の悪さは、外の世界なら即、職質を受けるだろうレベルだった。
寝不足なだけだろうか? 何か心配ごとでもあるんだろうか?
で、その凶悪な顔で時々私をじーっと見てくる。心臓に悪い。
外では事件が起こりまくっているのに、ライブラの本部は静かだ。
クラウスさんとスティーブンさんはデスクワーク、私はパソコンでデータ整理。
ザップさんは――ソファで爆睡してる。一応名目は『緊急召集に備えての待機』。
どうも昨晩、徹夜で何かを探し回ってたらしい。何なんだ。
あー、ずっと座っていたら身体が痛い。
立ち上がって伸びをした。あ、ついでにご不浄に行ってこよう。
そーっと、歩き出すと、
「カイナ。どこに行くのかね?」
「はい?」
ビクッとして振り返る。クラウスさんが立ち上がってた。
「あ、いや、ちょっとその、気分転換に……」
「私も行こう」
「はあ!?」
「君の体調が心配だ」
「いや、それはちょっと……」
ちょっと引いた。しかしクラウスさんの目はマジである。
「気にしないでくれたまえ。私も少し休息を取ろうと思っていたところだ」
クラウスさんはマジでこっちに来ようとしてる。
いや、ちょっと待って。ずっとついてられても困る。何なの。
光速で助けを求められそうな人を求め――スティーブンさんに焦点を当てた。
副官さんはハーッとため息をつき、なぜか天井の方を見上げる。
一瞬、何か合図したようにも見えた。
私もチラッと上を見上げた。
はて。つり下がったライト以外は何も見えないが。
「クラウス。ちょっといいかい? ここの確認なんだが」
「だが彼女が――」
「子供じゃないんだ。こっちを優先してくれ」
スティーブンさんに言われ、クラウスさんは渋々、そちらに向かう。
その隙に、慌ててオフィスを離れた。
誰もいない廊下に出てハーッと肩を下ろす。
謎の心配性は何とかならないものか。