第1章 出逢い
「どうぞ」
長々と食前の祈りをした後、クラウスさんの手がやっとドーナツを取ってくれた。
もはや私の気分は、おやつを目の前にした犬であった。
「いただきます!!」
何日も食ってない人のようにドーナツを貪り食う。
うーん。炭水化物が定期的に補充されるようになってから、半分死んでた消化管が復旧してきたらしい。時々空腹感に悩まされるようになってたのだ。
でも『組織』が私を回収したら、どうせまた飲まず食わずになるんだから、飢えには慣れておきたいんだけど。
しかし目の前の激甘ドーナツはいかんともしがたい。
あとで雑草でも食べとこう。
クラウスさんは横でサンドイッチをかじり、私のがっつきようを見てニコニコ。
軽く触れるくらいの場所に座られてるけど、でもクラウスさんの体温を感じる。
『やっぱり鍛えてる人は違うな』と思いながら、次のドーナツに取りかかった。
……。
前より距離が近くなってない?
この前はもう少し距離を取ってくれたと思うんだけど。
いや気のせいか。自意識過剰ですな。
そう思いつつ、最後のドーナツをペロリと平らげた。
その後はボトルの紅茶までいただいてしまった。あー、胃にもたれる。でも幸せ。
満足して息をつくと、
「ミス・シノミヤ」
「は、はい」
また善意のお説教ないし福祉課面接タイムかと、緊張してしまう。そしたら、
「これを差し上げたいのです」
クラウスさんが別の紙袋を探り出した。
「あなたが必要とされているものと思い」
え? 何々!? お金? 保存食!?
「いえいえ、そんなお気遣いは不要ですよー」
平静を装うが、私はまたも尻尾を振りまくるワンコと化していた。
なので、クラウスさんが取り出したものを見た瞬間、一気にテンションが下がった。
「無くてお困りでしょう」
……聖書かよ。