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【血界戦線】紳士と紅茶を

第1章 出逢い


■Sideライブラ

「あ……」

 剪定ばさみが枝を切り、クラウスが声を上げていた。
 大事な枝だったらしくショックを受けているようだ。

「どうしたんだ、クラウス」
 デスクで作業中のスティーブンは、驚いていた。プロスフェアーに続いて園芸でも、こんな失敗をするなんて。
「……うむ」
 断腸の思いといった様子で枝を捨て、クラウスはうつむいている。

「何かあったのか?」

 常ならぬ様子に、スティーブンの声も低くなる。
 彼の精神の不調は、そのまま戦闘の情勢を左右しかねない。
 それは世界の命運に直結する重要なことだ。

「大変なことをしでかした」

「何!?」

 クラウスの重い言葉に、スティーブンは音を立てて椅子から立ち上がる。
 ソファでゴロゴロしていたザップや、報告書をまとめていたチェインも、無言でボスに視線を向けた。
「何があった。クラウス!」
 剪定ばさみ片手に立ち尽くすクラウスの側に行く。
 重要な案件なら、今すぐに動かねばならない。
「頼む、話してくれ」
 上司であり、尊敬すべき年下の友人の側に立ち、肩に手をかけた。

 が。

「彼女は全てを失っていたのに、私はなんと言うことを」

「は?」

 クラウスは聞き手に対し、こんな意味不明な説明をする男ではない。
「意味が分からんぞ、クラウス。もう少し――」
 状況をさらに聞きだそうとするが、

「私はずっと彼女にあんなに無神経なことを……いったいどうお詫びすればいいのか……」

 えーと……。

 スティーブンは、ここ最近のクラウスの様子を思い出す。
 休憩時間が近くなると、時計をチラチラ見ては心ここにあらず。
 そして休憩時間になるやいなやコートをつかんで出て行き、時間ギリギリまで帰らない。
 妙に上機嫌だったかと思えば、逆に落ち込んで帰ってくる。

 まさかこれは……クラウスに限って……だが、どうみても……。

 スティーブンはそうっと背後を振り向いた。

 チェインが目を丸くし……ザップが『ニタァ』と、擬音のつきそうな下品な笑みを浮かべていた。

 次に直立不動のギルベルトを見た。

 忠実な執事は、そっと肩をすくめただけだった。
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