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【血界戦線】紳士と紅茶を

第4章 異変



 そして私はハッと気づいた。

「あの、堕落王フェムトさんですか!? いつもテレビ見てます。よろしければ、サインと写真を!!」
 ドキドキしている横で、堕落王さんは怒りにジタバタしていた。

「普通すぎる! 何なんだ!!」

 そしてピタッと止まり、私をまじまじと見て。

「……何なんだ?」
「さあ?」

 そう言われましても。
 
 
 この堕落王フェムトという男。ヘルサレムズ・ロット一、有名といってもいいかもしれない怪人だ。
 千年の研究を極めた魔導の達人とも、『血界の眷属(ブラッドブリード)』とも噂されるが正体不明。
 こいつのおかげで、世界が滅びかけたことが何回かあるそうな。
 
「それはそれとして、ありがとうございました!」
「はあ?」
 堕落王さん、ピタッと止まり、不機嫌そうに私を見る。
「あなたのクソ迷惑な発明のおかげで、私、色々助かりました!」
 嘘では無い。
『組織』の連中が全滅し、クラウスさんと会うきっかけになった、巨大生物の件。
 さらにクラウスさんとお近づきになれた巨大イカの件。
 どちらも堕落王さんのおかげなのだ。

「あなたがいなかったら、私、どうなってたことか」
 頭を何度も下げると、
「普通とか平凡という言葉すら生ぬるいな。それ以下だ!」
 ボロクソ言われた。
「何たる愚かさ! 無能! 退廃と怠惰の象徴!」
「ああ! うう!!」
 言葉のナイフが肺腑(はいふ)をえぐる。だがどこか快感なのは何故だ。

 よく分からないけど、この人は私が『不死』だと一目で看破し、面白いから観察しようとしたのだろう。でも私は『不死』の能力持ちだけど、中身は平凡だ。
 珍しいものを期待されてもなあ。

 そういうことをボソボソと訴えてみたら。

「『不死』? 何だそれは」

 堕落王さんが奇妙なことを言った。
 そして少し考えてから、ニタァっと笑い、

「ああ『不死』か。確かに『そこだけ』『切り取って』見れば、そう見えなくはない。まさしく愚鈍ちゃんの発想だな!」
「え」

 何か、妙だな。

「柱だと思っていたものが、離れてみたら実はゾウの足だった!」

 堕落王さん、面倒くさそうに帰りながら言う。

「君が『不死』だと思い込んでいる物の正体は、つまりそういうことだ」

 どういうことだよ。
 問い返す前に堕落王は、闇に溶けていた。


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