第4章 異変
そして、ライブラにそろそろ行かねばという時間になった。
クラウスさんは当然のごとく、一人で行こうとされていた。
だから私も一緒に行く気だと知ると、さっき以上に心配そうな顔になった。
「カイナ。やはり休んでいた方が」
クラウスさんがオロオロと声をかける。
私はよろめきながら、どうにか着替え終わる。
「行くに決まってるでしょう、行きますよ!」
お情けで組織に入れて頂き、しかもボスの愛人という浮薄な身の上。
能力は、今や無価値も同然な『不死』一個限り。
雑用でも何でもいいから、使ってほしかった。少しでも仕事を覚えたかった。
「ならギルベルトを迎えに――」
「いいですって! 窓から見えてるでしょう、ライブラの建物!」
スマホを出そうとするのを、腕をつかんで止める。
クラウスさんご本人のためならともかく、私なんかのために呼べやしねえ!
「ならば入り口まで」
「わ!」
軽々と両腕に抱えられ、玄関まで行く。
クラウスさんは上機嫌に戻っている。
目が合うと、キスをしてくれた。
でもそれもドアを出るまで。
「私の腕につかまりたまえ。何かあったときは、いつものように私の指示通りに」
「了解」
家を一歩出れば、紛争地帯でも歩くかのような緊張感が漂う。
夢を見させてくれないなあ。
…………
私はライブラの貸し出しノートPCで、ポチポチとデータを打っていく。
スティーブンさんの許可を得て、単純なデータ入力作業をやらせていただいているのだ。
最初の頃はキーボードを見ながら超スローで打ってたけど、最近はブラインドタッチにも慣れてきた。
「カイナさん、終わりましたか? では次の入庫データもお願いします」
「はい!」
「いやあ助かります。私、長時間、画面を見ていると目が疲れるもので」
ニコニコとギルベルトさん。
「あ、カイナ。悪いけどこれもいいかな。人狼局に回すデータなんだけど、指定したファイルに数字を入れるだけで終わるから」
「大丈夫です、チェインさん!」
「お嬢さん、これも頼むよ。昼までに終わらせてくれ。不審魔術痕跡情報の、簡単な振り分け作業だから」
「……はあ」
たまっていく……私の周囲に書類がどんどんたまっていく……!
クラウスさん、そんな心配そうな目でチラチラ見てくんな!!