第4章 異変
そして、一夜明けた。
記憶にございません。
一切記憶にございません。
いや一部、記憶に残っているが、正直認めたくない……。
とにかく明くる朝、私はぐったりして枕にしがみついていた。
「カイナ。大丈夫かね?」
さわさわと、髪を撫でてくる手をバッとはらう。
しかし気を悪くした様子も無く、今度はうなじを撫でる。何故。あとくすぐったい!
ちらっと顔を動かすと、ヘルサレムズ・ロットの朝靄の光が、窓から入ってくる。
なおも髪を撫でられるので、不承不承、身体を半回転させた。
するとベッドサイドにトレイを持ったクラウスさんが立ち、笑っている。
「朝食にしよう。起きられるだろうか?」
トレイを一旦ベッドサイドテーブルに置き、私を姫君のごとく抱き起こす。
そして予備の枕だのクッションだのを、背もたれにし、座る姿勢に固定させる。
……姫君じゃない! これ看病体勢!! しかも手慣れてる!!
クラウスさんは、まだぼんやりしている私の頬に、軽くキスをする。
「おはよう」
「……おはよう、ございます」
真っ赤になってうつむく。
気まずくてベッド用テーブルを見ると、トーストにバターとジャム、ベーコンエッグが並べられていた。
クラウスさんはすでにいつもの服に着替えており、ティーポット片手に涼やかに笑いかける。まるで図体のデカい給仕さんだ。
「砂糖は?」
「二つ」
きっぱり言い切ると、自分の格好を見下ろす。
いつも着ている普通のパジャマである。昨日の傷は、再度手当てされていた。
身体はきれいになっており、汗っぽくもない。
つまり誰かしらの手により、再度風呂に入れられたものと思われる。
……だが私は爽やかな気分にも甘やかな気分にもなれない。
なぜなら、朝の身体に重くのしかかる疲労。
これは昨日の朝と夜、各一回分の疲労量ではありえない。
つまり。
この目の前で優雅に紅茶を淹れている紳士が。
重苦しい雰囲気をまとい、にらみつけると、クラウスさんは見るからに焦った様子になり、
「そ、その……もちろん、君の許可は得た」
そう言われれば、夢うつつにうなずいた記憶もあるが。
実際は、ほとんど寝てたんだろうな、私。