第4章 異変
…………。
私は足でバスタブの壁を蹴る。そのままクラウスさんのところに行き、筋肉質な背中に、自分の背中を合わせた。
「!!」
ものっすごいビクッとされた。前に入ったときと全然違う。
でも実は、これだけ緊張してくれてたのかと思うと、ちょっと嬉しくもある。
「ねえクラウスさん。何で、ずっと我慢してくれてたんです?」
ずっとそれだけが気になっていた。
テント生活時に一緒に寝たときは、知り合ったばかりだから、と説明はつく。
けどつきあい出してから、いくらでも機会なんてあったはずだ。
「それはその……君の境遇があまりにも、過酷だったと知り……」
えと。私が性的なことに恐怖心を抱いてると思ってたの?
そういえば教会の地下で、私の実験データを拾われたんだっけ。
データの中身の大半は人体実験目録みたいなもんだ。
面白半分でやったとしか思えない悪趣味な実験も多かったっけ。
ただデータのごく一部に……まあ関係ないデータもあったかもしれない。
どういうデータか? 残念! 私の口からは言えないなあ。
野望だけはいっちょ前の、鬱屈した男だらけの組織。そこに何をしても自由、最悪死んでも生き返る若い娘がいたらどうなるか。
……そういう話だ。
ただクラウスさんが、ライブラの皆が、そのことを知っていることを――情けなく恥ずかしく思うだけ。
だからクラウスさんは『そういった話題に触れるだけで、カイナが傷つく』とでも思ってたのか。
「やだな。人を勝手に可哀想キャラにしないで下さいよ。
今が幸せだから『組織』にいたときのことなんか、全然覚えてませんよ?
私って記憶力がなくてバカですし。あははは!」
「…………」
以前は、一晩悪夢に苦しむようなこともあった。
でも今は不思議と、ほとんど思い出さない。クラウスさんのおかげだろう。
「ぶわっ!」
ふいにクラウスさんが振り向いた。湯がもろに顔に当たった!
抱きしめられパニックになる。何? 何!?
「そうだったな、すまない。もう二度と君を哀れみの目で見るまいと誓ったのに……」
「あ。うん。反省は結構。結構なんで」
湯船につかってる時間がいい加減に長いし。
……その、当たってる。
「出ましょう?」
「それが良さそうだ」
互いに顔を赤くし、もう一度キスをした。