第4章 異変
「ん……ん、む…………」
うるさいくらいに、唾液の絡む音がする。
ちょっと、いやかなり息苦しい。相変わらず酸欠になりそう。
クラウスさん、キス長いって。苦しいですって。
「んぅ……んっ……ん……」
ちょっと首を振ると――そっと片手を優しく頭に添えられた。
……いや違いますがな。どう受け取ったら『頭を支えろ』って命令に捉えられるのか。
いえ固定されてちょっとは楽になったけど。
その分余計に逃げられなくなったというか。
それとやっぱり息苦しい、息。
きゅうっと力を抜くと、やっとクラウスさんが顔を離す。
あー、もう。息継ぎさせてくれないから、唾液が出るったら。
口の端をぬぐい涙目で睨みつけると、ちょっとすまなそうに笑う。
そのまま、コトが進むかと思いきや。
「?」
ふわっと持ち上げられ肩に抱き上げられた。
もみあげが近いな、もみあげ。せっかくなので、ちょっと引っ張っておく。
クラウスさん、私を抱き上げたまま、リビングをお出になる。
「どこぞへ参りますか?」
「バスルームに。やはりこういうことはちゃんと――止めたまえ。カイナ」
言い表せぬ不満ゆえ、もみあげを無限に引っ張る。
「わ!」
撫でられた。お尻、そっと撫でられた!
「そう私を煽らないでくれたまえ。どこまで許されるのか、試したくなってしまう」
逆に聞きたいのですが、許す場合、どこまで行かれるおつもりなのか。
呆れつつ、また、もみあげを引っ張る。
そしてハッとする。
……あ、あれ? 私、何かさっきからすっごく恥ずかしいことばっかしてない?
何だおまえ、発情期ですか。慎みのカケラもないのですか。
そ、その、私、さっきから何やってた?
せっかくクラウスさんがずーっと気を遣って接してくれたのに、礼の一つもなく恥ずかしいことばかり……。
あ……あああああっ!!
一気に自分が恥ずかしい奴に思えてきて、顔が真っ赤に火照る。
「あ、あの……クラウスさん……」
でかい肩にしがみつき顔をうずめる。
「やはり今日は何もせず手をつないで寝るのが……」
指先で背中に『の』の字を書きつつ、ボソボソと訴える。
「君の照れ隠しは本当に可愛らしい。もうすぐ着くから待っていたまえ」
耳元でささやかれた。き、牙が耳に当たるから止めて!