第4章 異変
とはいえクラウスさんは楽しそうに、ヘルサレムズ・ロット版の植物図鑑をめくる。
「初心者向けの植物にも色々あるが、オリーブなどはどうかね。
乾燥にも強く、花粉を購入すれば実をつけることも可能だ」
「葉っぱがちゃっちいですな。もっと大きくて分厚いやつが好みです」
ずるずると背中から下り、腕の下をくぐり、膝の上に座る。
「…………。もしや君の好みは多肉植物と呼ばれるものかね? こういったものだが」
クラウスさんが私に見えるよう、ペラペラとページをめくって下さる。
「おおおおお!」
サボテンのお仲間のような、色とりどりの可愛い植物が並んでいた。
「主に乾燥地域に生える植物で、この肉厚の葉の中に水を貯蔵しているのだ。水やりの調節は必要だが、そこに注意すれば鮮やかな葉をつけてくれる。インテリアとして、女性にも人気が高いそうだ」
「美味しそうですねー!」
「…………」
「あ、クラウスさんの温室にも、確か多肉植物がありましたよね。ちょっと場所と監視カメラの死角を確認したいので――」
「それよりもだ、カイナ!」
クラウスさんが汗をかき、バタンと植物図鑑を閉じた。
図鑑をテーブルに置き、私を後ろから抱きしめる。
肩の傷あたりに顔をうずめた。
「朝の件は、本当にすまなかった」
改めて詫びられ、ちょっと困る。
まだ延々と謝られそうだったので、ちょっと遮らせてもらう。
「クラウスさん……」
「――!!」
抱きしめ、キスをする。
うーむ。『そのうるさい口をふさいでやる』とか、男側からやるシチュだろうに。
まあクラウスさんは百年経ってもしそうにないが。
最初はちょっと戸惑ってたクラウスさんだったが、おずおずと私を抱きしめる。
舌を軽く絡め、相手の身体に触れる。
クラウスさんの息が、ほんの少し荒い。鼓動が早くなっている。
「じゃ、ちゃんとやり直しをして下さいよ」
……だから、これ、女の側から言うセリフなんだろうか。
「わっ!!」
自分にツッコミを入れていたら、バフッとソファに押し倒された。
「君は本当に、こういったことに抵抗はないと?」
「そういうの、言わせるんですか?」
目をそらすと、ちょっと笑う声。
「そうだったな。ずっと君に恥をかかせていたようだ……すまない」
そう言って、優しくキスをしてくれた。