第4章 異変
オフィスがしんと静まりかえる。チェインもザップも、もちろんギルベルトも、誰一人言葉を発しない。
言葉の意味は、皆分かっているだろう。
魔術の素養があるのなら、関連機関に預けてその能力を殺すなり伸ばすなりする措置が取られる。
だが恐らく前者はありえない。
それは彼女がヘルサレムズ・ロットを出て、向こう何年も会えなくなるのと同義。
いや、彼女が再びヘルサレムズ・ロットに戻れる保証もない。
『不死』の件はどうにかごまかしたが、『魔術』の件も加わっては、いつまで『牙狩り』本部を欺いていられるだろうか。
「……この件は保留とする。私に任せてもらいたい」
書類をデスクに置き、重々しくクラウスは宣言する。
いつかのときのように。
こちらは珈琲をすすり、
「いつまでそうやって、逃げていられるかな?」
クラウス・V・ラインヘルツともあろう者が。
「――――!」
おいおい。八つ当たりするなよ。だからそんな怖い目で見るなって。
だが気のせいか、ザップやギルベルトさんまでがこちらを冷たい目で見ている気がする。
悪役にされたもんだ。
こっちも以前ほど、お嬢さんを警戒しているつもりはないのに。
……先日、クラウスに用事があって訪問し――玄関口で間髪入れずミサイルを撃たれたときは、血凍道を使おうかと大人げないことを考えてしまったが。
「例え『不死』であろうと何だろうと。彼女にとって最善の道を考えるべきだ。
スティーブン。私への報告無しに勝手な真似は――」
「するわけがない」
両手を挙げて降参する。
友に殺されるという、面白い死に方はしたくなかった。
■Sideカイナ
お泊まりに来たクラウスさんと一緒に、さっそく何の植物を育てるかで盛り上がる。
「とにかく、早く育ってたくさん収穫出来るようなものが理想ですな」
リビングのソファで、でっかい背中にしがみつき、足をバタバタさせながら条件を伝える。
「ザップさんに聞いた話では、ミントが良いとか――」
首元まで這い上がりながら言う。
「カイナ! 植物に関してのザップからの意見は二度と参考にしてはいけない!」
なぜか知らんが鬼気迫る表情で言われた。