第4章 異変
『いやそれ多分、食い物の自力調達……』とザップがボソッと言っているが、やはり聞いた様子はない。
「早速、休憩時に園芸用品を買いに行かねばならないな。最近は女性用の、洗練されたデザインの品も充実している。それとも彼女と一緒に選びに行った方がいいだろうか」
完全に頭の中がバラ色である。
……例え当人が雑草食ってようと、人並みの欲望があろうと、クラウスには関係ないらしい。
傷つけたくない、嫌われたくないのである。
そこでスティーブンは、彼にする報告がもう一つあったことを思い出す。
「ああ、そういう話はお嬢さんと二人の時にしてくれ。
それとだな、クラウス。彼女の能力についての再検査報告が来ているが――」
クラウスの顔から瞬時に笑みが消える。
「……見せてくれたまえ」
珈琲を飲みながら分厚い書類を渡すと、すぐにクラウスはそれを精読し始める。
「お嬢さんの自己申告を元に、あの『組織』が残したデータを本部の方で再度分析してもらった結果――お嬢さんに魔術の素養があることが、完全に確定した」
ライブラ内でも言われていたことであるから、意外な結果でもない。
「…………」
「今のところは、己を守る目的でのみ発揮されているようだがね」
クラウスを悩ませている『植物の消化』という笑えるような能力も、恐らくは極度の飢餓に端を発している。
「消化器官の変化の他は、脳内物質の微細な調節が疑われる。
機関の予測見解としては『死』『拷問』『実験』に関する記憶の、限界までの希釈。
それによる自我崩壊及び重度PTSDの回避」
「…………」
「だが脳内物質の魔術的調整に関してはデータがないから、あくまで予測にすぎない。他の魔術使用もあるかもしれない。
研究機関の方は本人を直接見たがっているが……」
「却下だ。彼女は一般人であり、これからも一般人として暮らす権利がある」
「戯れ言だな、クラウス。ライブラの保護下にあるということは『牙狩り』に身を置くも同然だ。
……そんな顔をするなよ。落ち着いて話を聞いてくれ」
こちらも悪意から言っているわけではない。
分からないクラウスでもないだろうに。
「現在、彼女の使っている魔術はごく些細なものだ。
だがそれが『不死』と掛け合わされたとき――どんな影響が出るのかは誰も分からない」