第4章 異変
「隙ありだぜ、旦那ぁー!!」
そして、いつものバカが懲りもせず、クラウスに挑む。
それ自体は日課のような光景だが。
「どうした旦那! チビがいねえなあ! ヤリすぎてぶっ潰したのかあ!?」
「――――!!」
「ぐはぁ!!」
……確実に地雷に触れた。
クラウスはザップに高速パンチの連打を入れ、瞬殺。
しかもいつもよりパンチがキツイ。多分八つ当たりが入っている。
そして同胞を速やかにソファに放ると、後は見向きもせず書類を注視している。
クラウスの精神的不調の原因について、予測はとうに確信に代わっている
下手に言及は出来ない。というか、したくもなかった。
その緊張感が終業時まで維持されると思われたが。
ついに。
「チェイン……そ、その、いいだろうか?」
クラウスは背を丸めるようにし、部下に声をかけた。
「はい、何か?」
書類から顔を上げ、チェインは応答する。
「私的なことではあるが、君にしか出来ないことで、是非とも君に頼みが……」
「は?」
チェインに小声で、ぼそぼそと何か頼み事をしていた。
不思議そうな顔をするチェインだが、うなずき、スマホを取り出し電話をかけた。
「あ、カイナ? 今、いい?」
チェインと少女は、いつの間にか連絡先を交換する仲になったらしい。
確かライブラに顔を出すようになった少女を、ザップが『遊びを教えてやる』と街に連れ出し、目付役にチェインがついていって……という流れが何度かあったことは記憶している。
何だかんだで歳が近い者同士、仲は悪くないようだ。
クラウスはチェインの真横で、心配そうにチェイン――というか電話向こうの声を伺っていた。やがてチェインが、
「彼女が、直接あなたと話したいと」
「え!?」
分かりやすいくらいに『ギクッ!』とするクラウス。
だが意を決したようにスマホを受け取り、さらに背を丸め、何かしら謝罪のようなことを口にしている。
だが会話が進むにつれ、顔が明るくなり、何やらテンションが高くなっていく。最終的に何かしら約束を取り付け、電話を終えた。
チェインに礼を言ってスマホを返した後、こちらに笑顔(怖い)で、
「彼女が園芸を教えてほしいと言ってきた。ついに植物の造形の素晴らしさを分かってくれたようだ!」
聞いてもいないのに、話してきた……。