第4章 異変
『君にお詫びがしたい。何か出来ることがあれば何でも……』
肩を丸めながら言っているのが見えるようだ。
私ごときに、そんなに下手に出てどうするんだろう。
「いえ、それは本当にもう、どうでも――」
そこでちょっと考え直す。
「クラウスさん。園芸を教えていただけませんか?」
『!?』
食料調達が目的なのだが、ここはボカした方が良いだろう。
「いえですね。クラウスさんが楽しそうに園芸をされるお姿が前から気になっておりまして……」
『そうか、カイナ。君も神の造形物の美しさについて理解してくれるようになったのだな!』
「いえ全然」
『実はボンサイ展のチケットを入手し、君を誘おうか迷っていたのだ』
「誘わなくて結構っす」
『さっそく君の園芸用品を用意しよう』
「え? クラウスさんの予備の物とかたくさんあるでしょ? それを貸していただければ――」
『楽しみに待っていてくれたまえ!』
聞け。人の話を。
まあクラウスさんのテンションが戻ったから、それでいいか。
「それじゃ、お仕事頑張って下さい」
適当に会話を切り上げ、電話を終える。
「寝室……もう少しちゃんと掃除しとこうかな」
あとは鼻歌を歌いながら、のんびりと過ごした。
■Sideライブラ
その朝、クラウスがウザかった。
「はあ……」
また、ため息だ。胃が痛そうだ。
「ギルベルト」
また紅茶のおかわり。
朝の連絡の際も不審な応対をされたが、恋人の家から出勤してずっとこれだ。
うっとうしい。うっとうしいこと、この上ない。
だが仕事の最中も、何度かスマホを取り出し、何かしら操作をしようとして、すぐ止める。
その時点で原因は大方、予測がついた。
「スティーブン。報告の続きを」
「ああ、すまん」
だがさすがというか、私事で何があろうと、仕事自体は正確無比にこなしている。
朝、連絡を入れたときの『不審な応答』と『若干の遅刻』への謝罪も十分にあったし、その後の作戦行動に影響はない。
それだけに指摘もしづらく、スティーブンは淡々と仕事をこなすより他はなかった。
……というか痴話喧嘩に巻き込まれるつもりは、毛頭なかった。