第4章 異変
シャワーを終え、とことこと小走りに、ベッドルームのドアを開けた。
もういないかと思ったけど、クラウスさんはまだいた。
「クラウスさん。お先にシャワーいただきました。クラウスさんはどうします?」
「……! カイナ……!」
クラウスさんはすでに予備の服に着替えていた。相変わらずキチッとしてる。
しかし私が入るやいなや、こっちに走ってくる。
ん? キスかなと思ってると、
「カイナ! 傷を見せたまえ! それと、アザも!!」
ものすごい剣幕だ。片手に救急箱持ってる。
「大丈夫ですよ、これくらい。それより早く行った方が良いのでは?」
「ダメだ! いいから見せなさい!」
無理やり脱がされかねない勢いだったし、噛み跡は実際痛かったので、渋々服を脱いだ。
「――!!」
改めて全身を見て、クラウスさんは多大なるショックを受けていた。
「そんな……私が君に、こんなケダモノのような所業を……?」
うん。あれは実際に獣であった。あー。消毒液が染みる。
「寝ぼけて朝からああなるなら、昨日やった方が良かったんじゃないですか?」
塗り薬気持ちいいなあ。
「すまない。慢心していた……愚かだった……己の情動を制御出来たものと。
それが君にこんなことを……君を傷つけ、苦しめた。
すまない。本当にすまない……!」
手を出さなすぎて、性欲そのものが薄い人なのかと思ってたけど、理性で無理やり抑えてただけだったらしい。
一緒に風呂に入って反応しないレベルは、称賛に値する強靱さである。
……無茶苦茶に無駄を感じる、精神力の消耗法であるが。
何でそこまで我慢してたのか、気にはなるけど。
「君に詫びても詫びても償いきれない……! 私は、私は……!!」
さながら背教者の告白である。
「はいはい。許します、許しますから、クラウスさん、そろそろライブラに行かないと。私もご一緒に――」
「君は今日は休みたまえ!!」
「首元が隠れる服なら大丈夫ですよ。身体もそこまで痛いわけじゃ」
「全ては私の失態だ。どうか君自身のために、今日は休んでいてほしい」
「はあ」
そして打ちのめされたクラウスさんが、よろめきながら家を出て行った。
私は、まあいいかーとベッドにぼふっと埋もれる。
「今夜、続きあるかなあ」
目を閉じ、二度寝に入った。