第1章 出逢い
「でも、深夜に周辺地区のガレキを一斉撤去して、朝にはコレっていうのもすごいですよね」
私は教会周囲を見る。
周辺でまだガレキだの、崩壊しかけの建物だのが残るのはもうここだけだ。
あとは普通のヘルサレムズ・ロットの街だ。
たった一晩で被災地区が再興されてしまった。
ほとんどの店は営業再開し、住民も戻ってきている。
「異界の技術で居住区や店舗を高速再生したのでしょう。
こういった街では再建専門業者も多く、災害があれば商機と見て一斉に売り込みに来ますからね」
そういう再建業者の人らがなんでうちに来なかったか。
どう見ても金がないからだ!
ここみたいな場所に来るのは地上げ屋、人身売買業者、土地乗っ取り、あらゆる裏街道の人らである。
不死の能力があるのにしろ、クラウスさんがいなかったら、ホントどうなってたんだろ、私。
今さらながらゾッとする。
「一気に復興されると、ここだけ半壊のままって恥ずかしいですね」
ガレキに腰かけると、クラウスさんも少し距離を置いて座る。
残ったのは聖堂の一部だけだ。屋根はなく、崩れかけた壁と祭壇、巨大な十字のオブジェクト。長椅子とステンドグラスの下半分がある。
屋根がないので教会の作りかけの模型みたいだ。
「ですが、とても落ち着く場所です。早く再建出来ると良いですね」
「ええ、そうですね」
元々無事だったときも、信者の人なんて来たことないし、このままでもいい気もする……という本音は話さずにおいた。
その後、クラウスさんが再び、結界の修復をしてくれた。
「ありがとうございます」
「お気になさらず」
ガレキに腰かけると、クラウスさんも少し離れた場所に座る。
「どうぞ」
「ども」
紙袋の奥からドーナツが出てきた。わーい。
クランチチョコにかぶり付きながら、クラウスさんを横目で見る。
彼はサンドイッチを食べながら、時々こちらを見る。
目が合うと少し笑顔になった。ちと怖いが。
ホント、何で毎日来るんだろう、この人。
身なりもいいし、執事さんを連れてるあたり、ある程度の社会的地位もあるのは確実。
地上げ屋を吹っ飛ばした謎の戦闘技からして、ガタイがいいだけのビジネスマンではないことも明らかだ。
私なんかに構ってる暇、なさそうなのになあ。