第4章 異変
「ふわー。癒やされる~」
広いバスタブに浸かり、うとうとする。
「カイナ。しっかりしたまえ。もう上がろう」
湯に沈みそうな私を引き上げ、後ろからクラウスさんが焦ったような声。
「いや。待って下さい、もう少し~」
ちなみにここの風呂は、西洋式のちっこいバスタブではなく、日本式の大浴槽。
私がそっち出身だからと、わざわざ合わせて特注して下さったらしい。
おかげでデカいクラウスさんと一緒に入っても余裕余裕。
今もクラウスさんにもたれ、くつろぎきって肩まで湯に浸かっている。
……あれ?
何にもなってなくね?
普通に風呂に入ってね?
ちなみにバスルームはすごい湯気で視界が悪く、オマケに背中合わせに身体を洗ったため、特に相手の身体を見ずに終了した。
バスタブに入れば入ったで、私が速攻でくつろぎモードに入ってしまい、クラウスさんは私が溺れないよう監視中。
でもまあ、メインイベントだ。
だんだんとエッチな雰囲気になるかと思いきや。
……クラウスさんのご子息が、大人しい。
いや、さりげなくくっついても、軽くキスしてみても、ホントに反応してないみたい。
しかもクラウスさん、日本式の風呂に慣れてないのか腰のタオルを巻いたまま、湯船につかりやがった。
クラウスさんがそうなので私もつい、温泉番組のごとく、バスタオルを身体に巻いたまま風呂につかってる。
……これ、ただの混浴じゃね?
私って全然、クラウスさんをエロい気分にさせてなくね?
ひしひしと、私の『女としての何か』が崩れてゆく。
と、そこにトドメの一声が来た。
「カイナ。もう上がろう。長湯は身体に良いと思われているが、実際は逆だ。急速な脱水状態に陥らせ、身体を疲労させる」
不安が一つの実を結ぶ。
まさか。唐突に風呂に一緒に入ろうと言ったのは『眠そうなので風呂で溺れないか心配だった』のでは。
クラウスさんが『安心したまえ』と言ったのは、しっかりリードするという意味ではなく『(溺れないよう見ているから)安心したまえ』という意味だったのでは。
不安が絶望に代わり――私はざばぁっと頭のてっぺんまで湯の中に沈んだ。
「カイナー!!」
クラウスさんが大慌てで、私を湯から引き上げたのだった。
いっそ殺せ。